【みちくさ公演】『抹消』出演俳優座談会

新作公演『抹消』出演メンバーの
小角まや沼田星麻堤和悠樹の御三方に
アマヤドリのことやお互いのことを、
ざっくばらんに語ってもらいました。

小角まや  当たり前だけど、今回の、この顔ぶれでの三人芝居って初めてだよね。

沼田星麻  そもそもアマヤドリで三人芝居ってのが初めてかもね。二人、四人っていうのはやったことがあるけど。

小角 カズ〔堤和悠樹〕は、2019年の『天国への登り方』がアマヤドリ初出演だよね?

堤和悠樹  そうです。2019年の1月。

小角 だから三年ぶり?

 そう、本当久しぶりで。

沼田 そして最近アマヤドリに入団と。アマヤドリに入った経緯を訊いてもいい?

 まずアマヤドリのワークショップ・オーディションに、気付いたら枠が一杯で行きそびれてしまったということがあって。そのあと、コロナ禍で休止していたアマヤドリの演劇ジムが久しぶりに開催されたので、そこに結構高い頻度で通っていたんです。それが、楽しかったんですね。お芝居やりたいのにやれる場所が少ないなって思っていたところもあったし、広田さんとは『天国』のときにすでに一回やっているので、慣れもあって、伸び伸びとやれて、しかも意外と広田さんも自分のことを褒めてくれて、楽しかったんですよ。

小角 うんうん。

 で、なんかいいなーと思って。アマヤドリ入りたいなーと思って。それと、〔宮川〕飛鳥や、河原〔翔太〕くんは、他のワークショップの現場とかで以前からの知り合いなんですよ。とくに飛鳥とは、休みの日に一緒に遊びに行くくらいめっちゃ仲良くて。

沼田 そうなんだ?

 それで、二人だけずるいなー、俺も入りてーなーって思って。

全員 (笑)

 とりあえず、ジムが終わったタイミングで、広田さんに「ちょっと時間いいすか」って言って。入団したいという気持ちを伝えました。

小角 あ、自分から言ったんだ。

 そしたら「あ、入る?」みたいな感じで。

小角 軽っ!(笑) まあ、もちろん「いいな」と思って入ってもらっているんだろうけど。

 ええ。広田さんも「やっぱり入る人はちゃんと見て選ぶよ」ということはおっしゃってました。それは嬉しかったですね。例えば過去にいた劇団員の方には、あまり自信がなくて、自分がこの劇団にいていいんだろうか、「なんで僕なんか劇団員にしたんですか、もっと良い人いるじゃないですか」と悩むような方もいたけれど、広田さん的には、誰であれいいと思って劇団に入れているのだから、そこは自信持っていいよ、と言われました。

小角 それは松下〔仁〕さんのことですね絶対。

全員 (笑)

沼田 そのネガティヴさは松下さんだな。

小角 星麻のアマヤドリ初出演は2013年の『屋上庭園』だっけ?

沼田 その次が『太陽とサヨナラ』、「紛争地域から生まれた演劇シリーズ」(演出・広田淳一)を挟んで、『ヘッダ・ガーブレル』をやってから入団かな。

小角 わりと企画公演的なものにちょくちょく出てからの入団だったんだね。最初アマヤドリに来たときはどんなふうだった?

沼田 どんな感じだったかな。『屋上庭園』の一番最初の稽古で、台本もあったから、稽古初日から科白を全部入れていったのは覚えてる。カマす気しかなかったから。「科白全部覚えてますけど、何か?」みたいな態度を取るために覚えていったから。そしたら広田さんすごく喜んでくれた。

 アマヤドリに入るきっかけは何でしたか?

小角 そもそも星麻は、アマヤドリ観てないのに最初ワークショップ・オーディションに来たんだよね。

沼田 そうそう。で、「出る?」って言われて出たのが『屋上庭園』。そのあと「劇団入る?」とも言われたんだけれども、一年ぐらい保留して、何度か客演してから、いい加減入るかなっていう感じでアマヤドリに入った。

小角 それから七年あまりやって。そのあいだ、ほとんどの作品に出てるんじゃない?

沼田 かなり出てる。出てない公演もあるけど、出席率では一番高いかも。ゆっこ〔大塚由祈子〕と双璧かな。

小角 長年アマヤドリをやってきて、心境の変化とかはあった?

沼田 うーん、あれかな、劇団員として七年も経つと、後輩がたくさん入ってくるんですよ。後輩だらけなんで。だから先輩っぽい振る舞いが求められますよね。最初は生意気一年生でよかったけれど、そういうわけにもいかなくなって。今まで稽古場で引っ張ってきた人、松下さんや〔笠井〕里美さんがいなくなったあと、いい空気で稽古できるような環境を整える側に自分がなっていくというのはあった。自分が良いパフォーマンスすればいいという話ではなくなり、アマヤドリ全体に視野がいくようになって。

小角 それだけ意識が変わったら、人としても成長するよね。

沼田 以前は自分、もっととっつきにくい人間だったと思いますけど。

小角 まろやかになったよね。私は元々とっつきにくいとは感じていなかったけれど、最近の星麻はとくにめっちゃ丸くなってる。丸々だよ!

沼田 それこそ後輩に対しては、とっつき易い人間でいようと心掛けていたりするから。で、何年も心掛けているとマジでそういう人間になっていくよね。或る程度。

小角 いつ頃から変わっていったんだろうね。

沼田 徐々にですよ。或るタイミングで、稽古場でウォーミングアップを主導する役目を、自分から志願して担当するようになったんですよね。それは最初は単純に、俺ならもっとアップをいい感じでできるぞと思って「やらしてください」って言っただけでしたが、それから、稽古場でみんなに対して喋る機会が増えた。そういうところから少しずつ変わっていったんでしょう。なんとなく勝手に立場が出来ていって、集団のなかでの居方も変わってくる。

小角 七年もやっていればね。

小角 あたしも入団してから十何年経つけど。

沼田 長いなー。そんな長いこと一つのことやったことないわ。

小角 大学卒業した二十二、三歳頃に入って。

沼田 自分がアマヤドリに関わって最初の頃に観たまやちゃんは、まだ新人っぽかったですよ。劇団の新人感がまだあった。『屋上庭園』の仕込みに来てくれたのを覚えてる。あ、すごいテンション高い人いる、と思って、それが劇団員の小角さんでした。

小角 (笑)

 長年劇団員をやっているあいだに、やっぱり何か変わりましたか?

小角 変わったというか、変化しかないというか。最初は周りに先輩もたくさんいて、二十代中盤のあいだは、同期っていうか出演者で年齢が近い人もいっぱいいたし、そういう人たちのなかで、「いい役やりたいな」「負けないぞ」という野心に満ちてました。「先輩にだって譲らないぞ」みたいな感じで。でも、それではなかなか上手くいかないなーってこともいっぱいあって、客演をしたり、外の劇団にも出させてもらったりということを経て、……最近では、どんな役でも面白いなって思えるようになりましたかね。劇団のなかでの立ち位置としては、そんなに自分は仕切る側に立つ方ではないので、というか、放っておくと仕切っちゃうタイプだから、新人の頃からすぐ発言して「これやってみようよ!」って言っちゃうタイプだったから、星麻みたいに敢えて仕切る側に立つみたいなことはなく、変わらずにやってきた感じです。星麻みたいに或るタイミングからはっきりと変化したということはない。

 でも広田さんとの関係は変わった。昔はちょっと、広田さんに認めて欲しいみたいな想いが無駄に強すぎて、広田さんの負担になるようなことを──「こういう役やりたいです」とか、伝えても無意味なことを、未熟ゆえに広田さんに言ってしまったこともあったのだけれど。でも今では、どんな役でも心から面白いって思えるし、ただ演劇をやること自体が面白いと思えるようになってきた。

沼田 広田さんの関係というより、演劇との距離感が変わってきた?

小角 そうかな。どういう役がやりたいとかはなく、どんな役でもやりたい、というふうに変わって。だから今は、自分にとって劇団は、演劇をやらせてもらえるありがたい場所、みたいな感じ。

 後輩についてはどうですか?

小角 新しい人がいっぱい入ったけれど、今は外から観てるだけなので、いつか一緒にやりたいなって思ってます。このあいだの『純愛、不倫、あるいは単一性の中にあるダイバーシティについて』でも、みんな上手いなーって思って。上から目線みたいになってしまうけど、飛鳥くんとかすごく成長して、最初来たときとは別人のようになっていて。それだけじゃなくて、前からいるちょっと後輩の人、星麻とか、双子〔相葉るか・相葉りこ〕とか、なっちゃん〔榊菜津美〕とか、さんちぇ〔一川幸恵〕とか、みんな上手いなって思って。みんなすごい上手いからもう舞台一緒にやれないよ……って。

 そんなことはないでしょう!(笑)

小角 もう自分はアマヤドリに何公演も出てないし、演劇自体二年以上やってなかったから。それに去年の『青いポスト』の再演を観たときも、みんなすごく上手いと思って、アマヤドリのあの、全員で身体をぴたっと合わせるような動きも、めっちゃクオリティ高いと思って、これは素晴らしい、これにはちょっと自分は混ざれないな……って思っちゃった。

沼田 でも今回は、全員で動くみたいなのはないよ。

小角 ね。それはなんとかごまかせるなーって、安心してる。

全員 (笑)

 これ俺からの質問なんですけれど、自分がアマヤドリを知ったのは『非常の階段』の再演〔2017年〕からで、それ以前のアマヤドリはほとんど知らないので、過去からのアマヤドリの集団の変化といったことについて、伺ってみたいです。

小角 まず、人数は増えた。めっちゃ。

沼田 そうだね。

小角 だって、星麻が入った頃って十人いなかったよね。それより前はもっと少なかったし。でも今は役者だけでも二十人弱いて、スタッフの劇団員も含めると二十人を超える。

沼田 大所帯ですね。で、人数増えたから当たり前だけど、俺がいる七年のあいだだけでも、劇団として昔より緩いつながりになってきていると思う。前はもっとギュッとしてたというか、お互い監視し合っている感があった。芝居の上でも。今の方が一人一人独立してやっている感じがあるかな。べつに昔から変わらず仲良くやってるんだけど。

小角 そう、仲が悪かったわけじゃないけど、昔の方が殺伐とした空気になることは多かったかもね。もっとピリッとしてた。そしてピリッとしたときにあまり逃げ場がなかった。

沼田 逃げ場がなかったし、むしろ俺なんかそのピリッとした空気に加担してたかも。

 『天国への登り方』のときは、全然そんなこと感じなかったですけどね。

小角 広田さんもやっぱ年々丸くなっているのかな?

沼田 そうなんじゃないかな。どこまで意図的にやっているかは分からないけれど、長くつづけていくためのエネルギーの使い方を見出したというか。「いつも100%全力を出し切るぜ!」というテンションでは、二十年もつづかないと思うんですよ。もちろん、全身全霊でやる、っていう情熱はときに必要なんだけれど、今後もずっと演劇をやっていく、しかも色んな人と色んな作品をやるに当たっての、ちょうどよい情熱のあり方、というのを見つけてきているんじゃないかな。

小角 それはすごいあるかも。『ロクな死にかた』の初演って、もう十年以上前だけれど、そのとき広田さんが「僕はこの作品で作家としての死を描くのかもしれない」って言ってたのが、印象に残ってる。それはもう、当時の広田さんは、これが駄目だったら自分は終わるってところまで自分を追い込んで、追い込んで書こうとしていたんだろうと思う。それで劇団にもなんとなくそういう空気があって。

 でも今は……星麻が七〜八年でしょ。で、なっちゃんも八〜九年劇団にいて、双子とかさんちぇは七年ぐらいで、そんなに中堅どころの劇団員が多くいる時期って、アマヤドリ(=ひょっとこ乱舞)の過去になかったと思うんだよね。だからもちろん、公演になれば広田さん含め、そのときできることを100%でやるんだけど、それとは別にちょっと、長くつづけていくことを考えて力の抜きどころを作るというか、広田さん個人としても、劇団としても、やれるようになっているんだと思う。

沼田 自然にそういうやり方を身に付けてきた気がするね。

小角 それもあって広田さんも丸くなったのかも。

沼田 ひょっとこ乱舞時代も含め二十一年ですか。人間、そうやって変わっていくんですねえ。

小角 (笑) ……ところで、カズってすごい話し易いね。

 そうですか?

小角 あまり今まで喋ったことなかったじゃない。『天国』のときは人数多かったし。

 たしかに。お二人だけでなく、既存のアマヤドリの先輩方とは、めちゃくちゃ絡みがあるということはまだないですね。

小角 それでいきなりの三人芝居。どうですか。

 いや、めっちゃやるぞーって気分です。アマヤドリ入った直後はまだ公演の予定がなくて、劇団に所属はしてもそれを発表する機会がなかったので、こうして、僕にとってはお披露目的な公演、しかも三人芝居で出番も少なくはないだろうという公演に出られるのは、本当に嬉しいですね。プレッシャーよりも喜びの方が大きいです。自分のキャスティングが決まったのは最後だったじゃないですか。『天国への登り方』で縁のあったまやさん、星麻さんと一緒にやれることになったのも、自分のなかでは嬉しい要素で。

小角 なんで? るかが嫌いなの?(笑)

 そうじゃないです!(笑) るかさん・りこさんとも仲良いですよ。ただ、ケイスケさんとは今まで絡みがないですし、マドカちゃんは全然知らないし、純粋に『抹消』メンバーに入れたことがラッキーだったってことです。

沼田 俺、カズについて、『天国』のときに覚えてるのが、小屋入りのときに……

 あ、不味いですよその話!(笑)

沼田 小屋入りの日に……(差し支えあるため省略)……それをすごく覚えてる。

小角 そんなことがあったんだ。

 だから去年久しぶりにアマヤドリに関わったとき、11月の『崩れる』のときかな、当日制作を手伝ったんですが、アマヤドリの男性陣に会うのに、若干緊張していたんですよ。星麻さんに会うのにもドキドキしちゃって。そんな恐ろしい想い出もありました。

小角 じゃあ、これから頑張ってください(笑)

全員 (笑)

 よろしくお願いします(笑)

アマヤドリ みちくさ公演

『抹消』/『解除』

作・演出 広田淳一

2022年 8月2日(火)~4日(木)
    8月23日(火)〜24日(水)
    9月6日(火)〜7日(水)
    @スタジオ空洞

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