2024年6月、
穂の国とよはし芸術劇場PLATで上演される
アマヤドリ新作本公演『牢獄の森』。
その出演メンバーより6名が、
主宰・広田淳一の出したお題に沿って
ざっくばらんに語り合いました。
◆参加メンバー◆
沼田星麻/倉田大輔/相葉るか
深海哲哉/星野李奈/さんなぎ
沼田星麻 では早速、アマヤドリ本公演『牢獄の森』、2024年6月の豊橋公演に向けての俳優座談会というものをやっていきましょうか。よろしくお願いします。
全員 よろしくお願いしまーす。
沼田 参加者は出演者のなかからアマヤドリ劇団員の沼田星麻、倉田大輔、相葉るか、深海哲哉、星野李奈、そして客演のさんなぎさんを加えた6名。このメンバーで話していきます。
倉田大輔 或る程度広田さんの出したお題に沿って、ワイワイしゃべるって感じでしょ?
沼田 そうです。一応俺が司会進行っぽいことをした方がいいのかな。まず、今回の座組の雰囲気は、どんな感じですかね?
倉田 今回の座組の雰囲気は……これ、広田さんにも同意してもらえると思うんですけど、「さんなぎ with アマヤドリ」です。
全員 (笑)
さんなぎ ちがいます! 逆です!
倉田 それでしかないです。さんなぎ with アマヤドリ。ワントップです。
さんなぎ 勘弁してくださいよ(笑)
倉田 まあまだ稽古はじまってからそんなに経ってないですから。
沼田 全員揃ったのがまだ一日だけですからね。でも劇団員のなかに客演一人っていう、さんなぎさんにとってはどう考えてもやり辛い稽古場なのに、その日一番しゃべってたのがたぶんさんなぎさんだから。
倉田 そうなのよ。よくあれだけしゃべれるなと思う。悪い意味でなく。なんか、もうちょっとほかに客演さん何人かいるんだったらまだしも、まさに「さんなぎ with アマヤドリ」っていう状態で、一番しゃべっていた。
全員 (笑)
沼田 頼もしいかぎりですよ。
さんなぎ 私、〔名探偵〕コナンの話で盛り上がってただけですよ?
沼田 あの日の話題の半分がコナンの話でしたからね。でも、コナンについて語ってるうちの四割はさんなぎさんだった。
さんなぎ 昨日、稽古が休みだったので、コナン〔劇場版『100万ドルの五稜星』〕観に行きました。
倉田 興収120億円突破だとか。
さんなぎ いや、本当、興行収入がすべてじゃないんですよ……!
全員 (笑)
倉田 もうスイッチ入っちゃった。
沼田 次の話題いきましょうか。東京以外の場所、豊橋で演劇をやることについての意義、期待、不安などはありますか?
倉田 やっぱ演劇ってその場でしか観られないし、最近は映像配信もあるけど、生で観てなんぼの世界なんで、いつもとはまたちがう場所でやれるという喜び、楽しみはありますよ。
沼田 ツアーであちこち回っていると、客席にも地域柄があるなと思いますね。南に行けば行くほどお客さんは笑ってくれる。
全員 (笑)
倉田 大阪の人は笑いに厳しいんじゃないかって思ったりするけど、全然笑ってくれるよね。
沼田 笑ってくれますね。僕が一番南で演劇をやったのが福岡で、福岡は大爆笑してくれました。
星野李奈 へー。
沼田 『ぬれぎぬ』〔第9回福岡演劇フェスティバル参加作品〕でも笑ってくれましたから。この演目でこんな笑ってくれるんだって感じでした。
あと、海外。僕はベルリンで一度公演やったことがあるんですけど、全然客席の雰囲気がちがって面白かった。ベルリンでは、お客さんが日本みたいに完全には静かにならない。絶妙にざわついてる感じ。日本のお客さんだったら、客入れの音楽が終わって暗転したらスッて静かになってくれるじゃないですか。あっちのお客さんは、舞台に俳優が出てきているのに「はじまるけど、まあいいでしょ」みたいなざわつきがつづくんですよね。細かいリアクションみたいなのがずっと聞こえたりする。そういうふうに、地域柄みたいなのがあるから、新しいお客さんに出会えるのは楽しみですよね。
倉田 深海さんはどうですか? 広島と東京をかなり行き来されてますけど。
深海哲哉 地域柄の話だと、広島のお客さんはあまり笑わないかもしれないです。反応を出さないというか。僕自身が客席で観るときも、周りに影響されて、笑いたいんだけれどもなんとなく抑えてしまう。東京でやるときの方がお客さんの空気は分かるかもしれない。でも、僕が演劇で行った一番南は宮崎なんですけど、宮崎のお客さんはかなり反応が分かりやすかったです。だから、南に行くほど笑うっていうのは、当たっていなくもない。
倉田 とはいえ〔沼田〕星麻くんも日本中の劇場を回ってきたってわけでもないでしょうから。南ほどお客さんが笑ってくれるっていうのも、適当な経験則でしょう。
沼田 そうですよ(笑) 星野さんは、どう? 東京以外で演劇をすることが初めてだと思うけど。
星野 今回、滞在制作もするので、体力が持つかなって思っています。
沼田 体力?
星野 いつも住んでいる場所じゃない場所で演劇をやることで、どれだけちがってくるのか。私、一人暮らしもしたことがないんで、二週間滞在して稽古して本番するっていうのが、どれくらい過酷なのか、想像つかなくて。どういうことに気をつければいいでしょうか?
倉田 参考になるか分からないけど、俺、今回枕を持っていこうと思ってます。
沼田 おお。
倉田 過去、普通にホテルに泊まって寝るっていうとき、いくつか「これは無理だ」っていう枕に出くわしたことがあるんですよ。二週間は長いから、枕が合わないと地獄でしょう。だから、枕。僕のアドバイスは枕です。
さんなぎ 私も訊いていいですか? 着替えってみなさんどのくらい持っていくんでしょうか?
星野 私もそれめっちゃ訊きたかった。
倉田 集団で行くけど、プライヴェートの時間はあるから、洗濯は各々そのときやってもらうことになる。着替えの量は人それぞれ。さんなぎさんが「三日間同じのでいけます」っていう人なら少なくていいけど、最低、4セットぐらいはあった方がいいんじゃない?
深海 僕は普段広島にいて、東京に滞在するってことが多いんですが、僕はあまり荷物は持ちたくない派なんで、3セットですね。結構大事なのは、ハンガー。折り畳みハンガーっていうのがあって、それを重宝してます。
全員 へー。
倉田 持っていくのが大変じゃないなら、量持っていった方が或る程度は楽になるんじゃないかな。洗濯の回数も減らせるし。
星野 もう一つ訊いていいですか。滞在制作での、メンタルの保ち方みたいなことはありますか。
沼田 メンタルの保ち方……?
倉田 星野さんはメンタル壊れちゃう人なの。
星野 自宅じゃないから……。プライヴェートの時間がまったくないわけじゃないんでしょうけど、集団でいる時間が長くなる環境で、いろいろ落ち込むことがあったとき、どうしようかと。結構私精神的にダメージを受けたとき、外に出すのが苦手で、自分一人の部屋で出して一旦リセット、みたいなことをするんですけど。
相葉るか でも今回のツアーは、ホテルで個室があるから。そこで発散すれば大丈夫だよっていうのと、あと、ツアーの場合は、メンタル落ち込んだときに稽古外の時間で誰かに話したり相談したりもできる。帰宅したら次の稽古まで会えないっていう環境じゃないから、逆にそういうことがしやすくなったりもする。だから、大丈夫かも?
星野 ありがとうございます。
沼田 一人の静かな時間が大切っていう人には、地方公演はしんどいかもしれないね。どうしても。俺は稽古後に飲みに誘ったりしゃべったりめちゃめちゃしやすいんで、好きですけどね。みんな予定ないのが当たり前だから。
倉田 「今日は予定があって……」って言えないからね。
全員 (笑)
沼田 星野お悩み相談みたいなコーナーになってしまった。じゃ、次の話題。さんなぎさん、今回客演一人だけだけどどうですか?
さんなぎ 超不安ですー。
沼田 そうは見えないけどな(笑)
さんなぎ 劇団員のみなさんのなかには共通言語や共通の文化があるのに、私一人それがないから、そこは不安です。価値観とかも。これは仮定の話ですけど、私は遅刻が大嫌いだけど、座組としては遅刻OKだったりとか、そういう価値観のズレはきっとあるだろうなと。
倉田 そう。集団と自分がちがうんだなと思ったとき、それを吐露できる味方もいないって状況にもなりかねないしね。でも、その辺は遠慮なく言ってください。わりと受け入れ度数高い人たち多いんで。
沼田 なんか言われたら、大体劇団の方が間違ってますんで。
さんなぎ (笑) でも、そういう不安もありつつ、一点、安心しているのは、広田さん自身が同じ演劇サークル〔Theatre MERCURY〕の遠い先輩に当たるので、何か一筋共有しているものはあるはずって感覚はあります。ウォーキングの稽古とか、「これ、サークルでもやったやつだ」と思ったら、そもそもサークルに広めたのが広田さんだったりとか。そういう、「これ私も知ってるやつだ」っていうのがあるのは、安心感にはなります。
だから大丈夫だと思いますし、楽しみなんで、頑張っていきます。あと、稽古場であまりコナンの話はしないようにします。
全員 (笑)
倉田 適度にお願いします。
沼田 止められないからね。
沼田 ここからは直接広田さんの出したお題に答えていきましょうか。お題一つ目。「自分、もしくは社会が、以前より自由になったなと感じることは何でしょう?」。
全員 ……。
沼田 いきなりペラペラしゃべれるようなお題じゃないですけれども。倉田さんどうです?
倉田 自由ね……。世代、っていうか実際にはズレてますけど、自分は尾崎〔豊〕世代なんで。その尾崎がかつて「自由になりたくないかーい」って歌ってたんですよ。知ってますよね、深海さん?
深海 知ってます。“SCRAMBLING ROCK’N’ROLL”。
倉田 当時はそういうものに掻き立てられ、自由を追い求めていた少年だったわけですよ、僕も。でも今或る程度大人になって、自由性を手に入れたはずなのに、あまり自由だという感じはしない。まあ難しいですよね。自由とは何か、と。みんな果たして本当に自由を感じているのか? 星野さんとかはどうだろう。「自由です私は」「私翼あります」みたいな感じなのかな。
るか (笑)
星野 翼、ないです。
倉田 やっぱこういう「自由」みたいなワードを出されると、延々考えてしまうんですよ。自分、少し詩人なところがあるんで。
深海 自分は自由だなって感じたのは、ウーバーはじめてからです。
全員 (笑)
沼田 ウーバーイーツのアルバイトってことですよね。
深海 はい。これまで働くっていったら時間も場所も決まっていたのに、ウーバーは好きなときにできて、好きなときに辞められたりするんで。それこそ広島でも東京でも、どこでもできる。あれはかなり自分のなかで自由を感じたことでした。
沼田 シフトで働いていたときは、不自由さを感じていた。
深海 そうですね。先にシフトが決まっていたら、ほかの用件を断らなきゃならなかったりする。そういうのは格段に減りましたね。
沼田 それはめちゃめちゃ分かります。私もウーバーイーツやっているんで。もうこれは自由ですよ。自由すぎて危険ですよ。いつでもサボれますし。でも普通にバイトしているときと比べたら、ストレスのなさたるや、すごいです。これは私も分かりやすく自由を感じますよ。ウーバーイーツの自由さ、すごいです。
深海 そうですよね。
沼田 ほか、そんなカジュアルな感じで、何かございますか。
星野 カジュアルかどうかは分からないですけど。私が昔と比べて自由だなって思ったのは、自分のハマっていることを言いやすい世の中になったなということ。簡単に言うと、世の中がオタク文化に優しくなった。
沼田 それはありますね。
星野 それをすごく感じる。私は中学生ぐらいのとき超絶二次元オタクだったんですけど、当時はまだ世の中がそんなに優しくなくて、そういう二次元系のものを好きって言うと、変に思われるみたいなことがありました。ヤバいやつ、みたいな扱いを周りから受けて。自由に「好きだ」って言えない空気があった。でも、近頃は優しくなった。それこそアニメ・漫画的なものを、広告とか、どこでも見掛けますよね。人とそういう話をすることも抵抗なくなった。
るか さんちぇ〔一川幸恵〕も星野と似たようなこと言ってましたよ。さんちぇも若い頃、星野と同じような思いをしてたって。
星野 マジですか。
るか 私自身も中学・高校生の頃は、そういうオタクっぽい人たちのことを変な色眼鏡で見てたかもしれない。でも今ではアニメも漫画も面白いなって思って、自分でもチェックするようになってて、変化はあるなって感じますね。
星野 今の時代、楽しいです。
深海 変化としては、共有しやすくなったっていうのが大きいのかな。
沼田 やっぱインターネットが出てから、同じ趣味の人、同じ境遇の人とつながりやすくはなったよね。こっちも、謎の趣味を持っている人たちとか、ネットで見掛けるのにも慣れてきた。以前はマイナーな趣味を持っている人たちが、社会のどこかにはいるんだろうけど、どこにいるんだろう、って感じでしたから。今はそれがいろんなところにいるんだなってのが見える。そういうことも含め、今は「自由」というのはインターネットと切り離せないですね。
さんなぎ 私も発言いいですか。たしかに、インターネットによって自由が広がった面があるというのは、そうだな、と私も思うんですけど、私はこのお題をもらったとき、「社会が以前より自由になった」例として、ネットは思い浮かばなかったんですね。例えば、SNSで何かの感想をつぶやいたとき、それが他人の癇にふれてすごい炎上するとか。或る人の個人の価値観が、文脈をはずれて全然別の解釈をされて他人を傷つけてしまうとか。ネットでは、そういうこともある。それこそ今回の『牢獄の森』のあらすじにもあるような、「正解しか許されない」「相互監視に束縛される」ということが起こりがちで。案外、ネットにも自由はないなって思うんです。
沼田 むしろ、さんなぎさんの感覚だと、インターネットの登場によって社会が不自由になったということなのかな?
さんなぎ ちょっと言っただけのことが、SNSを通じてものすごく拡散されていく。一つの発言を叩いていいってなったら、みんながその方向に流れていく。そんなことばっかりだなって。自由ってないなーって。
沼田 星野さんは、今のを聞いてどう思いますか。
星野 さんなぎさんに共感する部分は、あります。ネットのおかげでポジティヴに見れば話せることが増えたなって思いますが、他方では、ちょっとしたことで炎上するから、ものすごく細かいことに気を遣わなきゃならなくて、やり辛いなと感じる部分もある。こっちが何を言っても悪く受け取る人がいたりして、そういう人を説得しようっていうマインドになるのは、難しい。自分はSNS苦手民です。
沼田 良くも悪くもいろんな人がいるっていうのが、インターネットで可視化されましたよね。似たような人と出会って自由になることもあれば、こんなやつがいるのかっていうことで生き辛くなったり。ネットとは、それぞれにちがった付き合い方がありますね。
倉田 ネットっていうかパソコンっていうか、スマホですよね。ネットがこれだけ普及したのは。僕もですけど、スマホをなかなか手放せないですから。そこに本当に自由はあるのかっていう。
沼田 山登っててもスマホ手放せないですからね。
倉田 スマホのGPS見ながら、「こっちだこっちだ」って。何やってんだって感じですが。
沼田 ではこのまま次のお題に移りましょうか。今の話につながりそうなことなんですが、逆向きのお題です。「最近、とか、近頃の社会を見て、とかではなく、自分の人生を通じて息苦しい、窮屈だと感じてきたことは何ですか?」。
さんなぎ 事前に座談会のお題を受け取ったとき、このお題に関しては、私は明確に思うことがありました。私は、親からずっと、「演劇をいつまでやるんだ」「結婚しなさい」ということを言われているんです。
深海 ああ、はい。
さんなぎ 結婚相談所に入りなさい、と言われたり。「入ったのか」って念まで押されたり。自分は今一人暮らししてますけど、ずっと窮屈さを感じています。さかのぼると、その窮屈さっていうのは子供の頃からあって。私は中学受験してるんですけど、小学校二、三年の頃から塾に通って、遊ぶのは大学入ってからでいいって言われてて。中高のときも、入りたかった部活に入れなくて。高校生の頃は、それでもあと数年頑張れば自由になれるんだと思っていたけれども、でも、今も全然、自由になれていない。
倉田 親御さんに、自分の本音を或る程度言ったりはしてるの。
さんなぎ 言うけど、理解してもらえないんです。結婚したって幸せになれるとはかぎらないのに。それに、小さい頃からの刷り込みもあるから、変だな、嫌だなって思っても、この年齢になっても全然戦えないんですよ、親と。だから今一人暮らしして、或る程度自由になっているのかもしれないけれど、でも根っこの部分では、全然自由になっていない。ずっと監視されているような感じがする。べつに自分のやりたいことを親に認めてもらう必要はないはずだし、私は私で一人の主体であるはずだけれど、どこか、罪悪感みたいなことを結局抱いてしまって。今回の公演の、『牢獄の森』というタイトル……もし私にとって「牢獄」というものがあるとしたら、それは、家族かなって思います。
倉田 家族が牢獄。なかなかのパンチラインですね。
沼田 まあ演劇やっているような人は、似たようなエピソードを持ってるかも。
るか 学生のうちはよしとされてても、社会人になってからはわりと、親戚の集まりとかで言われますね。「まだ演劇やってるんだ」みたいな。「いつまでやるんだろう……でも、女の子は結婚っていう手もあるしね」みたいな。「まだ間に合うよ」みたいな。最近はあまり言われなくなりましたが、二十代の頃はちょくちょく言われてました。だから親戚の集まりに出るのがしんどかった。
さんなぎ 結構共感される話かなとは思います。
沼田 でも社会としては、結婚だけが幸せじゃないよねって風潮が近年できあがりつつあると思うんですが、それはどう受け止めてますか。
さんなぎ それは、いい傾向だなって思います。やっぱり、押し付けるのが駄目だと思うんですよね。こうあるべきだ、みたいに。だから、結婚しなくてもよいよね、ではなくて、結婚しない方がいいんだ、ってなったら、それもまた間違った風潮だと思う。ともあれ、傾向としては最近の風潮はありがたいなって、私は思います。でも私の親世代には通じてない。
沼田 社会の変化はありつつ、自分にとって重要な人は変わってないってことですよね。
さんなぎ そうです。何も変わってない……。
深海 いや、これ、親の立場から今の話を考えてみたんですけど。
沼田 おお。
深海 自分の長男はもう結婚できる歳なんで。やっぱり或る程度、僕の経験とか周りの価値観を踏まえて、こうした方がこの子の性格からすると幸せになるんじゃないかって、考えてはしまうんですよ。でも、親が持っている子供のイメージって幼い頃からずっとつづいていて、そこから脱却できなくなっているところはある。このあいだ、その長男から、マッチングアプリで彼女ができたっていう話を聞いて、衝撃だったんですけど。
沼田 (笑)
深海 僕自身としては、マッチングアプリで出会うっていうことに抵抗を感じる世代ではあるんですが、「そんな出会いで本当に大丈夫か?」とも思ったんですが、でも、本人はそれで納得しているし、細かい背景を知らないまま判断をするべきではないな、と。彼の自由だよな、と考え直しました。
るか 父。
沼田 親世代からのご意見。ありがとうございます。
では、最後のお題にいきましょう。長いです。──「最近は作家・演出家がワントップで創作するのではなく、もっと並列の関係でクリエイター同士がつるむ、集団創作のあり方が増えているように思います。演劇プロジェクトの「円盤に乗る派」等。もちろん依然として劇団というものはワントップの場面が多い集団だとは思うんですが、それも時代錯誤だな、と感じることが広田は増えてきました。俳優一人ひとりの方にとって、自分のクリエーターとしての能力、そしてやりたいことと舞台制作をどうつなげていくのがいいと思いますか? また、今後の劇団は、人と人とがどういう協力関係を築いて作り上げていくものだと思いますか? このあたりの理想と現実を聞いてみたい」。
倉田 このお題は、深海さん(グンジョーブタイ https://www.gunjyobutai.com)やさんなぎさん(ひみつまたたき https://h-matataki.amebaownd.com)は、ご自身の集団を持っていますから、思うところもあるんじゃないでしょうか。
さんなぎ いや、私は全然持ってるって感じじゃないです。
倉田 ご自身で作家も演出も出演も、って感じではなく?
さんなぎ 作・演出は別の方で。私は出てるだけです。
倉田 でも、企画を立てているのはさんなぎさんですよね。人を集めたり。
さんなぎ まあ、はい。いや、でも。私のことは基本フリーの俳優と思っていただければ……。
倉田 深海さんはどうですか。自分の団体では、ご自身が代表で、集まってくる人は大体深海さんより若いってことになりますよね。
深海 そうですね。お題にある、「ワントップによる創作ではなく並列」っていうのは、理想ではあるんですけど、僕のところはまだそうなってないんだろうなと思う。もちろん意見の交換とか希望をメンバーが言いやすいようにしたいとは思っているんですが、でも、どうしてもやっぱり、最終決定は僕に委ねられるので、理想の並列にはなっていない。
倉田 少なくとも「クリエーターとしての能力」がないと最終決定は下せないはずで、企画だって立てられないはずで、そこに差が出てくるのかな。
深海 僕に趣味嗜好、自分にとって明確に好きなもの、っていうのはあります。でも創作チーム全体に高い演劇の教養があって、それを各々が出すことができるなら、或る程度並列のクリエイションに近づいていけるのかもしれない。逆にそれがないと、どうしても、トップダウンのクリエイションになってしまう。参加する一人ひとりが、趣味嗜好を言語化することが大事なんじゃないか。クリエーターとしての能力を舞台制作につなげるには、そこがはじまりじゃないか。
倉田 難しいですね。並列の関係での創作……どれくらいの並列をイメージすればいいんですかね。演出家って、やっぱり演出するのが仕事なわけで。演出家と俳優を区別するとして、これで並列で作品を創るって、どういうイメージなんだろう。
さんなぎ でも、それでいうと、私が以前アマヤドリの『青いポスト』(2021年12月)に出演させていただいたときは、かなり並列な稽古場だなあと、私は感じました。
倉田 広田さんの演出って、僕はまあ付き合いが長いからそう感じるのかもしれないけど、なんか、圧倒的に自由度は高いですね。もうちょっと明確な演出をして、作品の色合いを出すタイプの演出家の方もいますから、それと比較すると。
さんなぎ 私が広田さんに対してありがたいなって思ったのは、私が台本について「これってなんでこうなんですか」って訊ねたら、それに一つひとつ答えてくださったんですね。私の意見も、なるほどそういう考えもあるかって、聞いてくださって。前評判では、広田さんってちょっと怖いという話も聞いていたけど、これだけこちらの話を一対一で、きちんと聞いてくださるということに救われたところはありました。そういう意味では、広田さんの言葉でいうと、「並列な関係」で創作ができていたんじゃないかなと思います。『青いポスト』のときは。
倉田 であれば、「並列」というのは、現場ではもう或る程度は実現していて、現場以外のところに目を向ける必要があるのかもしれない。もうちょっと集団的な意味合いですかね。
沼田 このお題は、たぶんそうですね。稽古場で、っていうよりは。でも、「並列」の関係でクリエーターがつるむっていう集団、あんまり思い浮かばないですけど。俳優をやりたい、って思って演劇界に入った人間が、どれだけ団体の運営に興味を持てるか……。舞台に立つこと以外の、宣伝とか、経理とか、折衝とか、実際そこで大金が動いて損したり得したりっていうことが起こることに、メンバー全員がどれだけ責任を持ってやれるか。権力をただただ平等にすることはできるんでしょうけど、責任感まで持たせることは可能なのかな。自らすすんでそこに責任を持てる人がいれば、その人が自分でほかにトップダウンの集団を作っちゃいそう。
倉田 実はまさに、今僕はこの問題に直面しているんですよ。何人かの仲間と話し合って、動いている演劇の企画があって。それがこの「並列」の関係に近いんです。権限が参加者に平等にある。でもその企画が走りはじめてから一年近く経って、わりと会合も回数をこなして、台本についても議論して、なんならちょっとした稽古もやったりしているのに、全然「やろう」っていう段階になっていない。お互いがお互いを、牽制し合うわけではないんだけれど、決定権を発揮してガッと持っていくことが、やり辛くなっているんですよね。自分がワントップの代表であれば「もうやるぞ!」って持っていきやすいんですけど。台本についての意見も別れるし、「ともかく一回やろう」っていう人と、「納得するものができるまで待とう」っていう人とで、意見が別れている。こうなると何がいいのか悪いのか、なかなか難しい。
沼田 適度に責任を持つって難しいですよね。僕は団体なんて持ったこともないですが、小さな経験として、高校のときの文化祭で、舞台の演出家をやったことがあります。単純に演出だけじゃなくて全体のトップみたいな感じ。こうなると俺も、例えば、誰かが担当して作ってくれたちょっとしたチラシのデザインも、気に入らなくて、まるまる自分でまったくちがうのに作り替えちゃったりするんですよ。「これイマイチだな。これじゃお客さん来なくなっちゃうな」と思って。もちろん任せるところは任せなきゃならないんですけど。その判断って結構難しいですよね。
倉田 理想と現実ってことですよね。現実、そうは理想的に並列にはいかない。
沼田 「今後の劇団は、人と人とがどういう協力関係を築いて作り上げていくものだと思いますか?」……結局ワントップが必要かな。
全員 (笑)
るか ワントップっていうのは、このご時世的には難しい立場だと思うんですけど、そのワントップをできるだけ孤独にさせないとか、そういう協力関係を築けたらなって、理想としては思います。
沼田 部分的に責任を持つ人にそんなに見返りがないんですよね。主宰です、っていうことを名乗っていると、その団体が起こしたあらゆる評判、マイナスの評判もですが、自分のしたことに対する評価だという感触を得やすいし、周りもそういうふうに見てくれる。対して、細かく責任を分散していったときに、それぞれがそれをおいしいと思えるのかどうか。
るか このお題からはやっぱり、劇団業務のことを、考えました。おいしいおいしくないで言ったら、おいしさを感じにくい部分のことを。俳優以外の業務は、基本、適性があるもの、やる気が出るもの、自分の気持ちが追いつくものしか担えないかなと思います。お金とかモチベーションにできないし。そこは、どうしても担当が不安定になっちゃうっていうのはあります。各々ストレスにならないように協力できればいいんですけどね。
沼田 最後に今回の公演への意気込みを。これは一人ずついただきましょうかね。
深海 今回だからとくに意気込みが極まる、なんてことはないんですけど。でも、僕は、アマヤドリに入ってからずっと再演ばかりだったので、新作に出られるというのをまず楽しみに思う。さらに豊橋という自分にとって初めての場所でやるから、なお楽しみで。その楽しさをしっかり楽しめるよう頑張ります。
さんなぎ 私も前回の出演が再演だったので、新作に出られるのも、地方公演も楽しみです。楽しみな分、素晴らしい作品を創るぞというモチベーションも高いです。それを維持しつつみなさんに喰らいついていけたらいいな、と思います。
星野 私も実は今まで出たアマヤドリの舞台は再演で、『人形の家』は原作ありの新作だったので、全くの新作に出られるのは初めてで、そのわくわくと、その新作に貢献できるように、自分の自己表現をちゃんとして、作品に乗れるよう頑張ります。
るか 私、PLATに行くの七年ぶりくらいなんですけど、好きな場所だったのでほんとに嬉しいです。お客さんも、アマヤドリについてほとんど何も知らないっていう方が多いと思うので、そうした新しい出会いも大切にしたいですし、今回、『牢獄の森』は8月に東京公演もあるので、長いスパンで創作に取り組めるのも楽しみだなって思っています。
倉田 去年、スタジオ空洞で広田さんの新作の三人芝居をやって、僕的には楽しくやれたんですけど、今回、劇場が結構大きくて、広田さんの新作をこの規模でやるっていうのがかなり久しぶりなことだと思うんですね。広田さんは空間の規模とかを或る程度作劇に反映させるから、そういうところも含めて、どうなるか楽しみです。あとはまあ、さんなぎさんに「こいつらヌルいな」って思われないように……。
さんなぎ いやいやいや。
倉田 なめられないように、頑張っていかないとなって思いますね。
さんなぎ 逆ですから。
沼田 われわれも気を引き締めていかないと。まあ、自分も新作公演に出るのはかなり久しぶりなので、広田さんが今の俺にどんなキャラクターを書いてくれて、どんなテーマで新しい物語を書いてくれるか、すごく楽しみです。あとね、新作の本公演を東京以外でやるってことがまずないので、それがどういう結果になるか、お客さんの反応も含め、未知数すぎて楽しみにしております。
それではみなさん、今日は長時間参加いただきありがとうございました。
全員 ありがとうございましたー。
PLATレジデンス事業 新作共同制作
アマヤドリ本公演
『牢獄の森』
作・演出 広田淳一
2024年 6月14日(金)~16日(日)
@穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペース
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