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『崩れる』出演者 – 西川康太郎

 

東京都出身、1980年生まれ。

日本大学芸術学部時代に劇団コーヒー牛乳(現ゲキバカ)に入団、そのまま現在に至る。
パフォーマンスユニットおしゃれ紳士の作演出も担当している。

 

 

Interview

  ───西川さんは『生きてる風』に引き続いての客演になりますが、遡ると西川さんは、2007年頃からアマヤドリ(の前身のひょっとこ乱舞)とのかかわりがあるんですね

 

西川 ずいぶん長い付き合いになっていますね。

  ───その長い付き合いのなかで、西川さんに演出家としての広田さんがどう見えているか、伺ってみてもよろしいでしょうか

 

西川 個人的な話をすれば、半分師匠のような存在だというところはあります。自分の劇団の創作でやっていることとはまったく別のものを、俺の演劇の文脈に加えてくれた人なので。古風な言い方をすれば、半ば師匠のような人。そして純粋に演出家として言えば、言葉を役者にフィットさせるのが上手い人だなと感じています。

  ───面白い表現ですね。「言葉を役者にフィットさせる」

 

西川 例えば……広田さんが頭をフル回転させてしゃべる言葉って、たぶん俺では理解できないと思うんですね、難しすぎて。でも、こちらの理解度がどのあたりにあるかを見極めて、俺と話すときは、戯曲や演技についての議論でも俺に分かるようにしゃべってくれる、それを、一人一人の俳優に対しても、相手に分かるようにさまざまな言葉を使い分けて接している。そういうことを広田さんはやっていると思います。演出家自身の世界観に合わせ、現場で使う言葉のスタイルが固まっている人もいますが、広田さんはそうではなく、演出のなかで個々の役者に合わせた言葉を投げていると思う。俺としても、広田さんから分からないことを言われた記憶はないですね。

  ───そんな広田さんと長い付き合いのある西川さんに、今作の『崩れる』という戯曲は、どう見えているでしょうか

 

西川 初演も観ているんですが、そのときは思わなくて、今回あらためて戯曲を読んで思ったのは、人間が実際に発しているいろんな無駄な言葉っていうのが盛り込まれているんだなってこと。だから、なかなか台詞を覚えにくいです。台詞が劇作家の意図によって配置されているというよりは、その登場人物が現実に発する言葉、ときには意味の通らない言葉にさえ寄せて書かれているようなので。普通の戯曲であれば、この台詞があって、次にこの台詞があって、この台詞はこの台詞を受けて……っていう展開は大抵はっきりしていますが、『崩れる』の場合は、「この台詞は何だろう?」ととまどう台詞が少なくない。おそらく、しっかり動機や意図に根ざした台詞よりも、その状況に強いられて「つい言ってしまっている」ような台詞が多いのだと思う。明らかに、自分が今まで馴染んできた戯曲の台詞とはちがう書かれ方をしているな、と感じます。通常であれば、「この人物はこういうことでこの台詞をしゃべっているんだろう」って当たりを付けられるところを、『崩れる』では一つ一つ立ち止まって考えなければならなくて、そこは苦戦していますね。

 広田さんの作品で言うと、俺の好きな作風は、最初の頃観たときの衝撃の記憶とかも大きいんでしょうけれど、やっぱり、『水』のような、ファンタジーの入っている作品の方なんですね。演劇に限らず、映画でもそうなんですが、現実とはちょっとちがうものを見せられた方が、自分のなかにスッと入ってくることが多くて。ベタな現実ではなくて、論理的な飛躍があって、「きっとこういうことなんだろうな」って考える余地がある作品の方が好きです。他方、『崩れる』は、実際、リアルにこういう出来事ってあるじゃないですか。そんな大したことじゃないと思っていたことで相手にめっちゃキレられて、謝る羽目になる、とか。それがそのまま直に舞台になっているから、……初演を観たときはダメージを受けましたね。あまりに救いがなくて。ただ、ダメージと感動は紙一重だと思いますから、現実のその切迫感を成り立たせるような台詞、演技の質を先鋭化していっているんだな、という広田さんの意図は感じます。一種マニアックになっているというのかな。

  ───そのような『崩れる』に今回西川さんがかかわることで、作品自体にどのような変化を与えられるとお考えですか

 

西川 明確な野望みたいなのはないですけれども。自分がアマヤドリに呼ばれている理由というのは、自分なりに考えると、武器がはっきりしていて、自分は騒がしくするのが得意だし、演技としてもそういうことをやりたいと思っていて、そういう修行もしてきた人間だから、そこを買われているのだろうと思う。ただ、『崩れる』という戯曲では、その武器を使う機会がなかなかないなとは感じていて。だから、どこでそれを上手く使うか。初演の『崩れる』の舞台では登場人物全員がリアルな佇まいで、普通の人がその場にいる、という感じでしたが、ぎりぎりのラインで、他の人たちとは少しちがう人間がいるという存在感が出せたらいいなと思っています。もちろんそれを広田さんが望んでいるかは分からないのですが、ベタな現実からは若干ズレた感覚が、自分が参加することで出たら、嬉しい。おそらく、それはあまり計算してやるようなことではないとは思いますが。この戯曲のスピードに合わせつつも、俺がどうしても抑え切れないところがあって(笑)、何か出てしまったときに、それを「いいね」と思ってもらえたなら、自分が変化を与えられた部分があったことになるかなと思います。

 

───ありがとうございました。西川さんの舞台上での躍動を、楽しみにしています

 

アマヤドリ 20周年記念公演 第一弾

『崩れる』

 作・演出 広田淳一

2021年 11月4日(木)~8日(月)
@シアター風姿花伝(東京公演)
2021年 11月13日(土)

@パティオ池鯉鮒・知立市文化会館│花しょうぶホール(愛知公演)

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