【2024年6月豊橋公演】矢作勝義さんインタビュー

2024年6月『牢獄の森』
アマヤドリ七年振りの豊橋公演。

その劇場、穂の国とよはし芸術劇場の
芸術文化プロデューサーの矢作勝義さんに
さまざまなお話を伺いました。

 

 

矢作勝義さんプロフィール

1965年生。東京都出身。学生時代の仲間との劇団活動を経て、1998年4月世田谷パブリックシアター・(公財)せたがや文化財団にて劇場勤務を開始。2012年4月『穂の国とよはし芸術劇場』開設準備のため(公財)豊橋文化振興財団事業制作チーフ就任。東三河地域の芸術文化の創造交流活動拠点として2013年4月30日開館。2015年4月芸術文化プロデューサー。2019年2月劇場、音楽堂等連絡協議会会長。2021年6月(公社)全国公立文化施設協会理事。

 

───アマヤドリの稲垣干城です。よろしくお願いいたします。

 今回は、2024年6月14日~16日本番の、PLATレジデンス事業 新作共同制作 アマヤドリ『牢獄の森』に先駆けての座談会・インタビュー企画の1つとして、穂の国とよはし芸術劇場PLATの矢作勝義さんにお話を伺いたいと思い、この場を設けさせていただきました。

 まず最初に、矢作さんという方はどういう人なんだ、という、ざっくりとした来歴と、穂の国とよはし芸術劇場PLATで、どのようなお仕事をされているのかをお話しいただけたらと思います。また、アマヤドリ(ひょっとこ乱舞)との出会いについても簡単に触れていただけましたら。

矢作さん  プロフィールにもありますが、大学演劇部で活動していた仲間と劇団を旗揚げしてサラリーマンをしながら演劇活動をしていたのですが、ひょんなきっかけで1998年4月から世田谷パブリックシアターの広報担当として働くことになりました。その後、貸館・提携公演の担当や主催事業の担当など、様々な業務を担当していましたが、首都圏での経験だけでは、劇場職員としての経験値に偏りがでると考ていたところ、穂の国とよはし芸術劇場PLATの立ち上げに関わることができるということで、2012年4月から豊橋に移住して翌年の2013年4月末に無事開館し現在に至ります。

 アマヤドリ・広田淳一さんとの最初の出会いは、2006年7月のひょっとこ乱舞第15回公演『水』(中野ポケット)の宣伝のために、当時勤務していた世田谷パブリックシアターに、当時メンバーだった成河さんと制作の方が公演宣伝のため挨拶にきて企画書と招待状をいただいたことがきっかけでした。実際に公演を拝見したところ広田さんの書く言葉の詩的な美しさと、それを俳優が声に出したときの音の調和が魅力的だと感じ、その後いくつかの作品を拝見し、さらに集団としての動き・ムーブメントの独自性にも魅力を感じていました。そして2008年5月に世田谷パブリックシアターが企画した「日本語を読む」というリーディング形式の公演で別役実『不思議の国のアリス』の演出を広田さんに担当していただき、魅力的な上演となり広田さんの演出力の確かさを確認しました。それがさらに2009年12月の『モンキー・チョップ・ブルックナー』のトラム公演にもつながっていきました。

───なるほど。やる側として演劇に関わっていたところから、劇場の職員として関わるようになられたんですね。首都圏の経験だけでは劇場職員としての経験値に偏りが出るというお話も興味深いです。

 アマヤドリとの付き合いも改名前の「ひょっとこ乱舞」時代からで、長いご縁ですね。ありがたいことです。奇しくも、ちょうど矢作さんが豊橋に移住された頃が、僕たちの劇団の改名と同じ時期ですね。

 さて、今回アマヤドリがお声がけいただいたレジデンス事業は、2週間の豊橋滞在を経ての新作共同制作ということですが、この企画の意図や目的はどのようなものなのでしょう?

矢作さん  PLATでは、2017年からダンスレジデンス事業というダンス分野に特化したレジデンス事業をおこなってきました。それは、上演を前提としたものではなく、あくまで未来の作品作りへ繋がる種を作るということへのサポートとして行ってきました。2020年のコロナ禍以降、ダンスに限らず、首都圏で作品創作のための稽古場の不足やいくつかの劇場の閉鎖などによる作品創作の環境不足について声があがっていたので、その部分に対して地方公共劇場が何らかのサポートができるのではないかと考え、上演作品の創造に繋がるレジデンス事業を行ってもよいのではないかと考え、今回のPLATレジデンス事業を立ち上げました。

───ダンスレジデンス事業と比べると、今回のレジデンス事業は、その収穫までやってしまおうということですね。土壌を作り種をまき水をやり、その育ったものを分け合うような。本番の上演の前に10日以上もその公演を行う劇場空間で稽古ができる、創作の仕上げに向かえるというのは、集団にとっても個人にとっても、非常に栄養の高いものになるように思います。

 演劇の上演作品の創造につながる事業としては、新規の事業になるというわけですが、かえりみると、2014年から現在も続く「高校生と創る演劇」の第一弾でも、広田淳一(アマヤドリ主宰・作・演出)を呼んでくださいました。何か、こういう企画には広田やアマヤドリかな、みたいな、そういう理由やあるいは思惑(笑)みたいなものはありますでしょうか?

矢作さん  「高校生と創る演劇」という事業を立ち上げるにあたっては、まずは1994年に青山劇場が企画した『転校生』(作・演出:平田オリザ)を取り上げてはどうかと考えていました。初演は拝見していなかったのですが、SPAC・静岡県舞台芸術センターが飴屋法水演出により2009年3月にF/Tで上演したものを拝見して本当に素晴らしい作品だったので、『転校生』を取り上げました。ただし、平田オリザさんと似た傾向の演出家に依頼するのではなく、その対極にある、動きと音の演出に特徴がある広田さんにお願いすることにしました。そして、今回お声を掛けたのは、やはりコロナ禍の中で、活動を停止・縮小していく劇団・カンパニーが多いなかで、苦労しながらも劇団としての集団性を維持しながら活動を継続しているアマヤドリならば、このレジデンス事業にふさわしいのではないかと考えてお声がけをしました。同時に、作品・俳優・スタッフも優れたものを創造することを期待できるという面もあります。

───ありがとうございます。劇団としての集団性は、まさに広田がこだわり続けていることでもありますね。

 アマヤドリは、旗揚げからかなり多くのメンバーが入れ替わり、ある意味では何度も生まれ変わりながら、それでもやはり1つの劇団として存在している。作品を観てもらえると、アマヤドリだね、と言ってもらえる、そんなところがあると思っています。そこで──先の問いの回答と重なる部分があるかもしれませんが──矢作さんから見た、アマヤドリの魅力はどういった点にあると思われますか?

矢作さん  アマヤドリの魅力は、多面性と集団性だと思います。アーティストとしての広田さんは、言葉の広田淳一と、音の広田淳一と、動きの広田淳一の三つの特徴を持っていて、作品によりどれが大きく出てくるのかというのが異なるため、作品毎に受ける印象が変わります。今回は新作公演なので、どの面が強く出てくるのか未知数のところがありますが、そこを意識して観ていただきたい。そして、広田さんに今回の作品についての構想をお伺いした時に、架空の世界・社会を舞台にした作品になると仰っていました。アマヤドリではイプセンのような近代古典戯曲や、リアルな現代社会を舞台に描いた作品もありますが、この架空の世界を舞台に描いた作品というのも大きな特徴だと思います。広田さんが描くこの架空の世界というのは、初めは突拍子もなくあり得ない世界のように感じるかもしれませんが、観ているうちに、これは今まさしく自分たちが直面している、これから少し先の世界で直面するかもしれない様々なことを描いたあり得る世界なのではないかと感じさせてくれるものになると期待しています。

 また、劇団という集団性を維持することで、動きと言葉と音に関する共通言語を充分に理解した俳優達により演じられることにより、その架空の世界をよりリアルに描き出されることになると期待しています。

───いやぁ、むちゃくちゃ嬉しいですね。そして同時に、良い意味で、プレッシャーになりますね。言葉にしていただくことで、やっと自分たちの輪郭が見えるような気がします。6月公演も素敵なものをお客様へ届けられるよう、頑張っていきたいと思います。

 それでは最後に、公演を楽しみにしている方、観に行こうか迷ってる方、これを読んでくださっている方々に、一言いただけますでしょうか。

矢作さん  「アマヤドリ」という劇団名や広田淳一という作・演出家や出演者の名前を聞いたことがあるという方は、豊橋周辺では多くはないとは思います。しかし、彼らの作り出してきた様々な舞台作品は、劇場としてお勧めできるものだということは確かです。そして現在創作真っ只中の『牢獄の森』も同様に劇場としてお勧めできる作品になると思います。プラットでの稽古期間中に稽古場公開など創作の現場を共有していただく機会も設けますので、すこしだけ勇気を持って劇場にお越しいただきたいと思います。もちろん既にアマヤドリ、広田淳一の名前をご存知のかたも、改めてその魅力を確認しに来ていただくと共に、是非周りのまだ未体験の方をお誘いいただき一緒にご観劇ください。

───ありがとうございました。

参考リンク

専門人材詳細情報 矢作勝義(全国劇場・音楽堂等想像情報サイト)
https://www.zenkoubun.jp/jinzai/person_1059.html

高校生と創る演劇「穂の国の『転校生』」報告書
https://toyohashi-at.jp/archive/pdf/2014koukousei.pdf

穂の国とよはし芸術劇場PLAT、オープンまでの道のりコラム
http://seisakuplus.com/news/?p=135

穂の国とよはし芸術劇場PLAT、特集記事(JATET JOURNAL 2013 VOL.5)
https://www.jatet.or.jp/journal/data/jatet_journal_2013_vol5.pdf

愛知教育大学学術情報リポジトリ 「公共劇場が担う地域人材の育成について」
https://core.ac.uk/reader/268149940

 穂の国とよはし芸術劇場PLATは、豊橋駅直結、歩いてすぐ。

 ガラス張りの正面入口に、吹き抜けの2階の開放感、1階のカフェスペースには学生さんや市民の方々の姿が見えて、その延長に劇場職員さんの働いている姿も見えて。

 演劇にコンサートに落語に大道芸、ワークショップやイベントなど、多種多様な催しが行われていて。

 劇場の外観からも、劇場の中からも、開かれた雰囲気と芸術性を感じずにはいられません。

 色んな人たちが交じり合い、きっかけに溢れた空間のように思います。

 PLATでの滞在制作が、そんな劇場のあり方と響き合うようなものとなりますよう。

 アマヤドリの創作をお届けできればと思います。

PLATレジデンス事業 新作共同制作

アマヤドリ本公演

 『牢獄の森』

作・演出 広田淳一

2024年 6月14日(金)~16日(日)
@穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペース

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