2024年8月17日〜26日、
吉祥寺シアターで行なわれる
アマヤドリ・新旧二本立て公演。
その二本立てのうちの一本、
新作『牢獄の森』より、
出演者5名がつどっての俳優座談会、
第二弾です。(→ 第一弾)
◆参加メンバー◆
徳倉マドカ/宮川飛鳥/堤和悠樹
稲垣干城/さんなぎ
──── アマヤドリは今年6月、新作『牢獄の森』を愛知県豊橋市の「穂の国とよはし芸術劇場PLAT」にてレジデンス制作というかたちで創作、上演しました。そして、そこで完成した作品をさらに稽古期間を経て8月、東京の吉祥寺シアターにて、アマヤドリ・新旧二本立て公演の片方として上演します。
本日は6月の公演を経て、8月の上演に向けて再度稽古場に集結した、『牢獄の森』出演俳優のみなさんに、6月の公演のことを振り返ってもらいつつお話をうかがっていこうと思います。メンバーは、客演のさんなぎさん以外は前回の座談会から入れ替えたメンバーで行なっていきます。よろしくお願いいたします。
全員 よろしくお願いします。
──── さて、まずうかがいたいのはレジデンス制作のことです。『牢獄の森』は、通常とは異なり、座組が劇場のある豊橋市に二週間滞在して創作に専念するという、とてつもなくぜいたくな環境において創られました。それはみなさんにとって稀有な経験だったと思いますが、このレジデンス制作の経験をどのように顧みられますか?
堤和悠樹 本当に演劇に専念した時間だったなと思う。僕はiPhoneを使っていて、iPhoneは利用した時間が計測されるんですが、豊橋滞在中はまったくスマホを見ていなかったみたいです。一時間もないみたいな。つまりそれくらいつねに誰かと話してたりだとか、演劇だけの時間を過ごしたんだなと思います。
稲垣干城 僕もびっくりするくらいニュースを見なかった。普段は見ないにしてもYahoo!ニュースくらいは見るのに。あの時期は、本当に世間から隔絶していた。世間のことを何も情報入れない状態になっていた、結果的に。
宮川飛鳥 僕は普段劇団業務で稽古場を取る担当をやっていて、稽古後半になると、舞台美術を稽古場でどう再現するかに悩むんですが──たとえばスタジオ空洞にはあの長さのものは入らないな、とか──、どれだけ広いところを取ったとしても、椅子とかテーブルで舞台美術を再現するのはかぎりがあるんですよ。なんとか平台でごまかしたりとか。
堤 で、実際勝手が全然ちがったりね。
宮川 そうそう。でも『牢獄の森』のレジデンス制作の期間は、ずっと舞台美術がある状態で稽古してたわけで、あれってやっぱ特殊だったんだなっていうのを、あらためて感じています。
さんなぎ 本来俳優ってこうありたいな、っていう理想の時間ではありました。二週間、演劇以外のこと、バイトとか何にもしないで、しかもホテル組はご飯も用意しなくていい、掃除すらしなくていいし、本当に芝居のことだけ考えていればいいから、ありがたかったです。ありがたすぎる。もう二度と経験できないのかなと思うと悲しい……。
全員 (笑)
堤 稽古中からつねに本番と同じ環境にいるからめちゃくちゃやりやすいのは当然として、むしろ、ここまで至れり尽せりなら本番で生半可なものは見せられないな、とプレッシャーの掛かる、気合い入る瞬間はありましたね。
──── 今回のレジデンス制作では、本番をやる劇場で稽古できる上に、宿泊しているところも劇場近辺で、あらゆる意味でタイムロスが少なかったと思うのですが、その、普段とくらべて豊富にある時間的余裕によって、みなさんが創作の上で普段以上に追求できたことは、どういった部分だったでしょうか。
さんなぎ 私は、夜寝る前に台詞をばーっと覚える時間を取る人間なんですけど、豊橋滞在中は、稽古も13時ぐらいからだし、早起きする必要もなくて、思う存分夜中台本に向き合う時間が取れました。私個人としてはそれが一番良かったなって思います。
徳倉マドカ 私個人の話ですけど、私は普段本番期間は他のものをすべて捨ててやる勢いだから、それは豊橋でも変わらなかったんですが、心の余裕がある分、他の、スタッフワークのこととか、広報関係のこととか──どうやったら豊橋の方々に観てもらえるかなとかを考える時間が、すごく多く取れました。普段、ただ自分がやってもらっている側のことについて、豊橋ではたくさん考えることができた。
役者以外の業務で、自分の立っている舞台がいつもどういうふうに立ち上げられて、どういうふうに支えられているのかなっていうことを実感できて、それが舞台に立つ上でも力になりました。責任とかもそうだけど、ちゃんと完成させなきゃって意識とか、誰のためにやっているのかっていうことが、明確に線としてつながっていったから、それが役者としてすごく有意義だった。
堤 思ったのは、本当に、劇場で稽古するから、舞台面しか作れない稽古場とちがって実際客席があるので、「お客さんにはこう見えるんだな」っていう客席への意識を稽古段階から持つことができました。それは自分には結構大きかったですね。稽古場でやるかぎりお客さんの目っていうは想像のものでしかないので。
あと、レジデンス組は共同生活していたので、いつでも稽古終わってすぐ共演者と話すことができるのがよかったです。普段だったら、お金払ってどこかへ食べに行ったり、環境は悪いけど戸外で話すとか、若干ハードルがありますが、今回のレジデンス組だったら「ここどうだった?」っていくらでも簡単に気軽に話せた。それが最終的な舞台の質につながっていったのかなとも思います。
宮川 そう、自分もいろいろな人と話をして、相談して、役が深まっていった部分はたくさんあるなと思う。最初自分が考えていたようなプランに対して「全然もっとこうしていいんじゃない」って意見をもらって、ああなるほどなって考えたり。そういう相談を、いつもだったら稽古時間内にすることになるけど、豊橋では、稽古中はただただチャレンジするっていう時間で、相談や振り返りは、帰ってから食事しながらとか寝る前とか台本読みながら話すことができたから、結果、一つひとつのチャレンジをゆとりを持ってできていた感じがします。
さんなぎ パフォーマンスへの影響で言うと、仲良くなれたことの影響もあったかなって思って。私はあんまり、演劇をやっているからってそんなに無理して友達を作る必要はないと思っているし、必要以上に仲良くしなくても大丈夫かなって思ってるんですけど。基本的には。
堤 それはそうだね。
さんなぎ でもこうやって今回二週間みんなと一緒にいて、私はやっぱり一人だけ客演だし、或る種劇団員とはちょっとちがうなっていう感覚は持っていたんですけど、二週間一緒に同じ環境で芝居を創っていくってなると、なんか、仲良くしようとか何も思っていなくても、自分の心の距離が近づいていくのは感じました。「ここってこうじゃない」「ここってこうなのかな?」って、すごい意見を訊きやすくなった。
具体的なところで言うと、たとえば私の科白の次に〔沼田〕星麻さんの科白がつづくところで、ほんの少し違和感を抱いたときがあって、普段だったら、そういうことを感じることがあっても、次に自分のやり方を少し変えてみようって思うくらいなんですけど、豊橋ではもう、星麻さんに直接「これって自分がどういうふうに言ったら言いやすいとかありますか?」って訊いたりして。そういうことも気軽にできました。
そうですね、……だから、最終的に良い舞台にするっていうゴールは大きく変わらなかったかもしれないけれど、そこに至る過程が、すごいやりやすくて、リラックスしてできたなって思います。
稲垣 そう。具体的なパフォーマンスの成果として、滞在制作とそうでなかった場合と、どういうちがいがあったのかは明確には僕は分からないです。分からないですが、でも、少なくとも、いい土は耕したぞ、肥料はちゃんと蒔いたぞ、かなり良い土になったぞ、ということは言えると思う。そこに成ったトマトの実が、他の土地でできたトマトとくらべてどれだけちがうかは分からないんだけれど──。
少なくとも。良い土はできた。そう思います。
──── 土。耕しましたね。
ついでながらお訊きしますが、逆に、レジデンス制作における特有の苦労というのはありましたか?
徳倉 ない、かもしれない。元々旅が好きなので、サイコー、と思ってたかも。
稲垣 心構えの問題かもしれないですが、レジデンス十四日間は、何気にギリギリだったっていう感じはあるかな。これより長いとなると……。終盤で、もうそろそろ完全に一人の時間がほしいって思うようになっていたから。
宮川 分かる。
さんなぎ でもレジデンス組もお部屋は別れていたでしょ?
稲垣 別れていたけど、いや、でも、いるじゃん。
全員 (笑)
宮川 平屋で、一階にみんないるのは分かるからね。
徳倉 たしかに、私もレジデンス組だったら限界が来てたかも。
稲垣 二週間めちゃくちゃ楽しかったし、不満もほぼなかったんだけれど。長さは、ね。これ以上だとどうなっていたかな。
宮川 まったく同じ意見です。二週間がマックスだったかもしれない。何かに不満があったとかでは全然ないんだけれど、終盤はさすがに家に帰りたいなってなった。豊橋滞在中でも、一人の部屋で一人のベッドで寝ていたものの、どこかでちょっとこう、気遣っている部分があるんですよ。まったく何も気にしないという身体の状態ではいられなかった。
──── 堤さんは全然共感してないみたいな顔してますけど。
全員 (笑)
堤 俺はまだいけたけどなー。全然大丈夫だった。そんなこと思ってたの? みたいな。
宮川 カズ〔堤和悠樹〕は自由すぎるんだよ(笑)。
あと、さっき芝居のことだけ考えていればよかったっていう話がありましたが、むしろ僕は、芝居のことしか考えられない状況をきつく感じた部分もありました。普段、本番期間中も、他のことを考えられることによって救われることってあると思うんですよ。家のこととか他の仕事のことだったりとか。豊橋滞在中は、東京のコミュニティーとはほとんど連絡を取らなかったので、豊橋のこのコミュニティーだけですべてを解決しなきゃいけない、っていうプレッシャーはありました。実際何か問題があったというわけじゃないんですが。今回豊橋に滞在することで、逆に普段は、家族とか、友人とか、バイト先とか、いくつかのコミュニティーを持っていることでストレスを感じないで済んでいる部分があるんだなって、気づきました。
堤 僕は全然そんなことなかったですけどね!
全員 (笑)
堤 でもこれは、やっぱ座組が良かったということもあると思います。劇団で或る程度積み重ねがあるメンバーで、東京での稽古で或る程度客演のさんなぎさんのことも「こういう人なんだな」って分かっていたから、空気感がなじんでいた。みんな良い人だし、まあ幸せな時間だったなって顧みます。
──── 良い話で締めていただいてありがとうございます。
では次に、『牢獄の森』という作品そのものについてうかがっていきたいと思います。『牢獄の森』は、2017年の『崩れる』以降のアマヤドリの作品の集大成のようなところのある作品だと思いますが、広田さんとしても、こういう戯曲を書きたいという構想はかなり以前からあったそうです。みなさんは『牢獄の森』をどのような作品だと捉えていますか? 劇団員の方であれば、これを広田さんの戯曲としてどう位置付けておられるか、客演のさんなぎさんは、外部の視点で、アマヤドリの作風含めてどう感じておられるか、等々語っていただければ。
宮川 身近な問題を小さな世界観のなかでリアリズム的な会話劇として創る、っていう広田さん作品の一つの方向性があるとして、他方、とくに昔の作品はSF的というかファンタジックというか、大きい世界観のなかで登場人物の「個」の物語を見せるっていうもう一つの方向性があって、でも、今回の『牢獄の森』はその両方の要素がある作品だなって思っています。
近未来の、一つ想像力が必要な設定の作品世界、だけれど、起こっている出来事とかは「そういうことよくあるよね」っていう揉め事だったりする。そういう意味で、両極端な要素が合わさった作品としてすごく興奮しました。僕の好きな要素が両方とも入っているなって思って。
一番最初、エチュードから創られたシーンをやっていたときは、これはどういう作品になっていくのかっていうのが、自分のなかでは捉え切れていませんでしたが、最終的にはこういうしっかりした世界観の作品になった。僕は、『水』をのぞけばこういうファンタジックな世界観の作品に出たことがなかったから、この作品に携わった上で自分が舞台上でどういう居方でいればいいのかっていう課題は、楽しめている部分と、難しく感じる部分とがあります。
──── 今、リアリズム的な会話劇という形容が出ましたが、アマヤドリにおける会話劇という場合、リアリズム劇とはいえわれわれの等身大のリアルを追求したリアリズムではない、そういう特色があると思います。今作でも、これだけお互い喧嘩っぽくなっているのに議論をつづける、つづけられるという気質が登場人物全員にある時点で、単なる会話劇の範疇ではくくれないものになっている。
稲垣 今回は、登場人物たちが話し合うということが設定の前提にあるから、これだけ議論がつづくことも、こうした会話が交わされることも、過去の広田さんの作品よりは納得ができるかな、と思いながらやっています。
徳倉 第一稿が出されたとき、……いつもだったら私は、戯曲に接した最初から「なるほどこういう世界観なのか」って広田さんの創ったものを信じてやるんですが、今回の第一稿は、エチュードから書き起こしたものを伸ばして伸ばしてっていう内容だったから、素直な感想は、「これをずっとつづけるの?」ということでした。面白くならないと思ったわけじゃないけれど、ちょっと疑問が芽生えた。もちろんそこから広田さんが全部にすごい手を加えて、作品世界は広がっていったんですけど、こんなに延々議論していて舞台として成り立つってことが、文字として読むには面白いけれどこれを舞台にのせるということが、あまり想像できなくて、そこを信じてやるというふうにフォーカスを合わせるまでに個人的には少し時間がかかったかもしれません。最終的には「すげー」ってなりましたけど。
さんなぎ 私は最初、エチュードから創っていったっていうのもあって、この世界は自分の現実の延長線上から少しだけ外れたくらいのところにあるのかなと見ていたんですけど、劇場で、「鈴の音」の音響が入ったのを聞いたとき、一気にこの作品の世界観が私のなかで変わった印象がありました。
最初と最後に鈴の音が入るじゃないですか。あれを聞いて、私は、うまく言えないんですけど、単にSF・近未来というだけでなく、これが完全に別の世界線の話なんだという気がしたんですよ。広田さんは稽古場で、「これをテーパの夢ということにはしたくない」とおっしゃっていたんですが、でも、豊橋公演で、やっぱりあの最後の鈴の音を聞いて、カーテンコールになったとき、私はこれは夢だったのかもしれないなという気持ちになっちゃって。
私はけっこう、「暗い絵本」みたいな世界観が好きなんです。例えば、アマヤドリの『青いポスト』もそういう暗い絵本の世界だと自分では思ってるんですけど、『牢獄の森』も、最初と最後にあの鈴の音が入ることによって、作品が完全にかたち取られて、別の世界の別の絵本のお話のような世界観になったと感じました。自分はそれがすごく好きだった。
堤 作品の魅力として僕が好きなのは、……広田さんのパブリックイメージって厳しい人だっていうのがあると思うんですけど、今回の戯曲には、あの人の愛とか、ロマンチックな部分とか、祈りとかが密かにさりげなく込められていると思っています。設定的には少し怖いというか、過酷な設定のように見えるんですが、そういった祈りのような要素がそこかしこに感じ取れるのが、いいな、って思います。
稲垣 実際どうなのかは分からないけど、今回、稽古場で外部の講師を招いてのハラスメント講習をやったのがかなり作品にかかわっている気がします。何かがあったら即アウトということではなく、ハラスメントは常に起こり得るという前提でコミュニケーションを取れる場を作った方がいい、という内容であったと記憶していますが。
──── なるほど。ハラスメントが直接作品のテーマになっているわけではないですが、議論のなかでデリカシーのない言葉をあげつらったり、科白の前に「これは失礼な言い方かもしれないけど…」といった断わりが入ったりするという戯曲の細部に、広田さんがハラスメント講習から学んだことが反映されているのかもしれないですね。
ところで、みなさん、今作における役作りに関して各自語っていただけることはあるでしょうか? みなさんが苦労した点、印象に残っている出来事、など。
さんなぎ 広田さんに言われたことでは、喋りのテンポを下げないでっていう言葉がありました。「テンポを落とさないで」って。逆に、私は自分のテンポが速くないかなって不安だったんですけど、「他の俳優さんとの緩急があるから、さんなぎさんはテンポを落とさずに速いままでいてくれ」って広田さんに言われました。
役作りに関しては、エチュードベースだからかな、私はあんまり何か言われた記憶がないですね。
堤 わりと俳優その人の個性が活かされたキャラクターになっていると思いますね。
宮川 僕は言われた方かな。最初のエチュードの時期に自分のキャラクターが見えないまま終わって、役も自分の個性が活かされた、という感じではなくて。広田さんから言われたのは、もっと極端にやってほしいということ、それと、他の人物たちからは距離のある存在として居てほしいということ。その居方が難しいなと思って……他の登場人物たちと普通に会話もしているし、仲良さげなコミュニケーションの取り方をしているし、或る種、周囲の人間をモルモットのように見ている視点をイメージしてみたりするんですが……なんだろう、仮に相手をバットでなぐり殺しても何も痛痒を感じないような立ち位置なんだろうか。そういう立ち位置って難しいな、と思っていて、まだ僕のなかでは課題です。それがとくに広田さんから言われたことですかね。
稲垣 その人の個性が活かされたキャラクターというと……。
──── ああ、稲垣さんの「高力リベット」という役が、稲垣さん自身の個性を活かしたと言われると、困ってしまいますよね(笑)。浮気の追求をのらりくらりとかわす男。
稲垣 もともとエチュードで与えられた設定からして、すでにああいうキャラクターではありました。ただ、もちろんその設定を持ってやってみたときにどういうふうになるかは個人個人の個性が出るでしょうし、そのせいもあって、高力というのは自分なのか役なのかよく分からないくらいの距離感だったので、或る意味難しかったというか、役作り的な意味での成否は不明ですね。あまり高力を「役」として捉えていなかったというか……役として、というよりも、周りとの関係で決めていった部分が多かったと思います、今までの作品とくらべると。こういう人たちがいてこういう立場でこういう関係でだからこうしていく、っていう方向性で作っていったような気がします。
さんなぎ その人の個性を活かした当て書き、って言われると、私なんかもっと本当にヤバいやつみたいになっちゃう。
全員 (笑)
さんなぎ 戯曲の初期の草稿にあった登場人物の説明では、私の役の性格について「他人への許容度が低い女性」って書かれていて。
徳倉 それずっと言ってる(笑)。
さんなぎ 反省しました。
全員 (爆笑)
さんなぎ 自分の役を反面教師にして生きていかなきゃいけないな、と思いました。
──── 堤さんはどうですか。
堤 役作りっていうと、僕は基本的に創作に臨む態度として、何をやったら面白いかをまず考えちゃうんですね。結果としてそれを役につなげていくっていう方法で作ることが多いです。
『牢獄の森』は、1幕、2幕、3幕と本当に地続きでワンシーンが長いから、リズム的にここで大きいの出したり、小さいのを出したりっていうのがどうやったら作品の面白さに直結するかを考える必要があって、それが今回も大切なことだったなって顧みます。
──── 堤さんは3月の『人形の家』疾走版での怪演が記憶に新しいですが、今作のパフォーマンスにおいて『人形の家』からの連続性はありますか?
堤 『人形の家』に挑む前から「面白いのは正義だな」っていうことは若干思っていて、あ、やっぱり正義だったな、っていうのがあの『人形の家』で実証されたところはあります。その面白さを疑ってみることも大事だと思うんですが、今回、自分が面白いと思ったことを提示する、それを準備して持っていく、っていうことを『牢獄の森』の稽古のわりと最初の段階からどんどんやれたのは、結構大きかったと思います。
──── 徳倉さん、ユニファという役柄についてはどうですか?
徳倉 当て書き、ということにつなげるなら、自分のどの部分が魅力的だと思って当て書きしてくれたんだろうかということを考えたとき、私は結構、舞台で存在感を消すのがすごく得意なので、そこの部分かな、と。今回長く人の話を聞いている時間のある役なので。
あと、ユニファという役が、他の人たちとは一線を引いている役ではあるから、ちゃんとちがう世界観、テンポ感、生きている上での流れている時間のちがいというものを持ってこなきゃいけないし、加えて、母親の役でもあるから、母性本能的な部分も強くしていかなくちゃならないし、それを全部ひっくるめて混ぜたらどこがどう魅力的になるかなというのを考えるのが、楽しかったです。
──── 最後に、『牢獄の森』を吉祥寺シアターで上演することに向けての意気込みなどを、語っていただければ幸いです。
堤 この作品を豊橋で上演したときにはお客さんがけっこう笑ってくれたんですよ。想定の数倍くらい、ここで笑ってくれるんだっていうポイントがあった。でも、そもそもよく読んでみれば笑いどころのちゃんとある戯曲なのだから、目指す目標としては、笑いどころでちゃんと笑いを取りにいく、ということ。じつは、俺は「これ面白いだろうな」って思ってやったところで笑ってもらえなかったりして、心残りはあるので、ちゃんと笑ってもらえる作品にしたいなと思います。
宮川 こういうふうなスパンで、本番を終えて、それから一ヶ月とちょっとでまた本番を迎えるという経験自体が僕は初めてですが、この期間、身体は温まったまま頭をまた整理できて、役を役としてもっと面白くするよう取り組めることがすごく貴重なことだと思うので、実際はそんな大きく変わることはないと思うんですけれど、一つ水準が変わったところで、吉祥寺で密度の高い作品をお見せしたいと思います。
稲垣 ちがう場所、ちがう劇場でお客さんとまたどんな出会い方をするかなっていうことが意気込みというか、楽しみですね。だから、そのために劇場での本番に向けて準備をちゃんとするぞ、っていうのが意気込みです。あと、二演目あるので、それを並べて両方観たときにどういうふうに思ってもらえるのかっていうことを楽しみにしています。
さんなぎ 私の印象に残っているのが、豊橋公演のときに、Xの感想や、ポストトークでお話してくださった右手愛美さんの感想のなかでもあった、「群舞ないんだ」っていうこと。やっぱりお客さんってアマヤドリに対して群舞を楽しみにしているんだなって思って、でもそこで「この作品は群舞ないんだ」って感想になっちゃうのは悔しいんで、吉祥寺シアターの上演では、お客さんたちが観終わったあとに「アマヤドリ観たなー!……あれ、そういや群舞なかった?」って言ってくれるようだったら嬉しいな、と思います。そうなったら成功かな。
宮川 群舞がないことに終わるまで気づいてほしくないよね。右手さんは途中で気づいた感あるから。
さんなぎ そこを超えられるようにしたい。でも、これ言ったら「あれ群舞ないぞ」ってお客さん意識しちゃうかな?
宮川 いやいや、その上で超えていきましょう。
徳倉 『牢獄の森』は「解像度の高い近未来SF会話劇」……フライヤーではそんなふうに説明されているんですけど。緻密な会話劇であるということは間違いないから、お客さんには期待して観に来てほしいということ。それと、さっき笑いがあるって話があったけれど、この作品をエンタメだと思って期待して観に来てくれてもいい、と私は思っていて。だから、期待して観に来てもらって間違いない作品。そういうふうに、お客さんから期待されていると覚悟した上で頑張ります。
さんなぎ いい意気込みだ。
全員 (拍手)
──── それでは本日はありがとうございました。
全員 ありがとうございましたー。