
◆参加者◆
小角まや/榊菜津美/松尾理代
小角まや それでは本日は、子供を出産しているアマヤドリの劇団員三人で、子育てしながら役者をつづけていくことについて、種々語り合っていきます!
(画面越しに二人が抱いている子供を見て)二人とも産んだんだねー。素晴らしいー。おつかれさまでした。今何ヶ月?
榊菜津美 二ヶ月です。
松尾理代 うちは今九ヶ月です。
小角 結構経ってる。
松尾 結構経ってます。幸いにして大きな病気もまだなく、健康で。
小角 うちは三歳。もう幼稚園みたいなところに行っていて、今の時間は家にいないですけど。なっちゃん〔榊菜津美〕は、昨日アマヤドリのイベントに出たんだよね?
榊 そう、夏のイベントに。(収録日は7/16)
小角 どうだった?
榊 自分を応援してくださる方たちにすごい久しぶりに会う機会になったんですよ。舞台には去年の3月を最後に出ていなかったから。でも、もし自力でそういう機会を作ろうとしてオフ会みたいなのを開くってなったら、めっちゃ大変じゃないですか。今回は完全に出来上がったものに乗っからせてもらっただけだから、ほんとに、劇団ってありがたいなって思いました。
小角 気分転換になりました?
榊 そうですね。すごく楽しかった。
小角 りっちゃん〔松尾理代〕も、豊橋で『牢獄の森』の稽古場に赤ちゃんも連れて行っていたんだよね。
松尾 そうなんですよ。実家が豊橋にあるので、最初は赤ちゃんを実家に預けつつ稽古場のお手伝いをしようかと思っていたんですけど、広田さんが、赤ちゃんを連れて来ていいし、自由にしてくれていいよっておっしゃってくださって。でも「自由に」っていってもどう振る舞ったらいいのかなって思いつつ、いざ赤ちゃんを連れて行ったら、すごいみなさんフレンドリーにしていただいて。
それで、〔稲垣〕干城さんにおうがかいしたんですよ。「実際赤ちゃんが稽古場にいることに、どんな印象を持ちましたか」って。ざっくり言うと、「良かった」っておっしゃってくれました。基本的にすごいポジティヴな感じで、ネガティヴな感情はとくになくって、和んだ、っておっしゃって。
干城さん曰く、「赤ちゃんには赤ちゃんでべつの勝手な呼吸があるから、お互いに或る程度勝手にしていてOKっていう感じの環境になるのは、すごい良いことだと思う」って。これは私もすごくそう感じました。或る種、こちらが異物じゃないかなって思ってたんですけど、お互い勝手にしていてOKという認識が、あちら側、役者さんやスタッフさんたちの側にあって、共存じゃないですけど、うまく回っていっている感じがすごくしました。それを「べつの勝手な呼吸がある」っていう言葉にしていただけたのは、ありがたいことだったなと思います。
小角 さすが干城さん、センスある発言だね。
それを聞いて思ったのは、稽古場もじっさい豊かになったんじゃないかな、っていうこと。広田さんてつねに、劇場のなかだけで完結するんじゃなくってその外にも世界があるっていう意識を持って演劇をやってるんじゃないかなと思う。例えば、シアター風姿花伝でやっていて、外の道路を救急車が走ってそのサイレンの音が劇場内に聞こえてきたりすることも含め、演劇なんだと考える。赤ちゃんもそうだよね。赤ちゃんって悪い意味でなくまったく空気読まないし、それに付き合わなくちゃいけない母親、っていう親子がその場にいることで、たぶん広がったことがあるんじゃないかな。劇のことだけにぎゅーって視野を狭めなくてよくなる。
松尾 私自身、行ってみてすごい良かったって思っています。娘が人見知りをしなくなったんですよ。稽古場で、俳優のみなさんだけじゃなく、広田さんをはじめスタッフさんもみんな、とくに美術の中村友美さんはお子さんがいらっしゃるからか、すごく娘を気にかけてくださって、声掛けていただいて、娘は超ごきげんだったんですけど。その経験があってから、そのあと支援センターに行っても、よその子に関心を持ったり、誰に抱かれてもニコニコしたり、すごい人が好きになって。本当にあの経験から変わったんだなと思います、娘が。
小角 すごーい。
松尾 本当に。アマヤドリすごいですね。エネルギッシュな人たちのエネルギーって赤ちゃんもとりこにするんだなって、そのとき感じました。
全員 (笑)
榊 それを聞いて思い出したけど、数年前にアマヤドリがPLATで舞台やらせてもらったときに、中村友美さんがお子さんを連れてきてくださったんですよね。私、場当たり中だったかな、ロビーでずっとそのお子さんと遊ばせてもらった記憶があります。思い返すと、劇団員に出産ラッシュがある前から、アマヤドリって赤ちゃん歓迎、ちびっ子歓迎みたいなところがあったように思います。
小角 やっぱり、いろんな人に会うって、子供にとってもいいよね。そんなに変わるなんてすごいな。九ヶ月だったら人見知り全開じゃない?
松尾 思ってもみなかったです。みなさんの厚意に甘えて、結構本番直前ぐらいまで行かせてもらってたんですけど、娘はいつもわくわくしてました。PLATだからこそ、というのもあったかも。稽古場もすごい広いですし、開放感があって、ちょっとぐずっちゃったりしても、大きいガラスがあって光の差し込んでくるロビーに行って気分転換になったりとか。すごく良い劇場でした。
* * *
小角 いきなり訊くけど、なっちゃん、りっちゃん、いつから舞台に出られそうですか? こういう企画だったら出られそう、みたいなことだったり、劇団の舞台にかぎらず、二人が役者活動の再開をどういうふうに考えているか、ということを聞いていいかな。
松尾 私はもちろん、また出たいなっていう気持ちもあって豊橋でお手伝いをさせていただいたんですけど。でも、やっぱり思ったのは、夜に稽古があると参加は難しいなということ。朝、お昼、……まだ陽の高い時間に稽古があれば是非参加はしたいなと思います。私はまだ本当に新人っていう段階で、まだまだ修行中の身であるなかで、休止になってしまったので……。
小角 修行中(笑) 武士?
松尾 やっぱり同じ時期に入った劇団員とか、自分よりあとに入った子たちが、舞台にたくさん出演して、豊橋でもそうだったんですけど、すごく成長しているのを感じて、素敵だし、私もああなりたいなって思うけれど……。何かしたいなって思うのですけどね。
小角 焦っちゃうよね。
松尾 例えばもし空洞〔スタジオ空洞〕で小さめの企画をやるんだったら、参加したいな、って思います。日中に稽古がある企画であれば。
小角 じゃあもう、状況が整えばいつでもやりたいっていう感じかな。
なっちゃんはどうですか?
榊 難しいですよね。
小角 でももうやりたいでしょ、なっちゃんだったら。まだ二ヶ月だけど。
榊 いや、なんか、結構若い頃から自分はお芝居をやりたいっていうのがそもそもあって、その上で結婚もしたいし子供もほしいなって思ってたんですね。考えとしては、長い目で見れば、出産とか育児とか、そういう経験が絶対にお芝居にプラスになるはずだって確信していて。だから、その意味では、意外と今すぐにどうにかして舞台に出たいとは思ってないのかもです。今、こうして子育てしている時間も、長い目で見ればお芝居に活きるに決まってんじゃんみたいな気持ちがある。その気持ちは子供が産まれてからもあります。直接出演するっていうんじゃなくても、この時間はお芝居にとってプラスなんじゃないかなって。
小角 いや、そのとおりだと思う。思うけど、事前に少し話したとき、なっちゃんから「現場を長期間離れるのは怖くないですか?」っていう話も出たじゃない。
榊 そう、めっちゃ怖くて。
小角 それは怖いんだ。
榊 それはそれで怖いんですよ。子育ての時間だってお芝居にプラスじゃん、っていう気持ちはありつつ、でも……あの、『推しの子』〔アニメ二期:2024年7月3日〜〕を観ていて思ったんですけど、2.5次元舞台の稽古みたいなシーンで、演出家が「もう少し強めで」だったかな、たしかそんなふうな抽象的な指示を役者に対して出したんですよ。俳優のお仕事としては、それを俳優自身の言語に翻訳して、具体的にどう演じるかに取り組むっていうことになると思うんですが、そのとき、この演出家の指示、私だったらどうする? どうやる? っていうのが、あんまりパッと出てこなくて、ちょっと怖くなっちゃったんですよね。
小角 なるほどね。
榊 私は妊娠中、結構出産直前までアクティングコーチのレッスンに行ってたので、それを含めればお芝居から離れてからまだたった数ヶ月しか経ってないんですよ。それなのに、こんなに怖いのかって。
小角 私は、妊娠してから二年ぐらい休んでたんですね。舞台に復帰したのが子供が十一ヶ月ぐらいのときだから。妊娠中もアクティングコーチに通ったりとかしてないから、完全に二年ぐらい休んでて、そのときはやっぱりすごく怖かった。他の人とくらべて焦るとかはなかったけど、本当に戻れるのかなっていう怖さがあって。とくに子供が0歳のときは、このまま戻れないんじゃないかっていうくらい子育てにのめり込んじゃってたし、それでいっぱいいっぱいになっていたから。
それで、一回戻れるっていうことを証明したいって気持ちになっていて、そんなときにたまたまお話をいただいて、あまり人と絡まない役だとどうですかっていう感じで相談させてもらって、稽古時間もかなり優遇してもらって、出たんだよね(劇団競泳水着『グレーな十人の娘』2022年4月)。
で、そのあと、なんかその「証明したい」って気持ちが爆発しちゃって、子供が0歳〜1歳のあいだにアマヤドリの企画含め三本くらい出たんですけど。それで当然ながらめちゃくちゃ疲れたんですが、でも、そうやって戻ってきたら、観てくださったみなさんからは「良かった」って言ってもらえたんです。しかも単に「良い」っていうだけじゃなくて「前よりも良い」って言われることが多くて。
たしかに、自分のなかでも引き出しが増えたなっていう実感はあったんですよ。……上手く言えないんだけど、本当に子育てしてると時間ないじゃん。睡眠時間も削られるし、産む前と本当に生活がガラッと変わる。そんな限られたなかで舞台を作っていかなくちゃならないってなったときに、まず、効率的に動く、無駄なことをしないっていう能力がバーーンってめちゃめちゃ上がった実感があったんですよ。
そう、私はなんか、以前はうじうじやってたんだよ(笑) ちょっと上手く言えないんだけれど。演技もね、なんか以前はもたもたやってたなって思う。子供を産んだあとは、自分のテンポ感も速くなったと思うし、それを武器として手に入れた上で、観てくれた人でも「前よりも良かった」って言ってくれる人が結構いたから、そこで自信は持てた。
そこから一年空いて、またアマヤドリで企画して『代わりの男のその代わり』っていう作品に出て、そこでもまた「過去最高に良かった」って言ってくれる人が沢山いて、自分のなかでも、子育てを経て自分が芝居をできなくなったっていう風には思わなくなったの。もちろん今いきなり吉祥寺シアターとかでお芝居してくださいって言われたら、そういう大きいところではもう五年ぐらいやってないから、声出るかな、身体動けるかなっていう物理的な不安はすごくあるし、ダンスとかたぶんできないだろうけれど、でも、小さい空間で演技をするっていう範囲では全然焦らなくていいと思う。
子供を育てるって、必死にならないとできないことだからさ、その経験を通して登っているっていうふうに考えていいんじゃないかな。人として。登らせてもらってるっていうか。
榊 広田さんもおっしゃってましたよ、『代わりの男のその代わり』のとき。まやさんについて、「お休みしてるはずなのに、なんでこんなに芝居が上手くなってるんだ」って。でもたぶん、子供を産んでも放っておいたら芝居が上手くなるわけじゃないだろうから……。
小角 いや、でもね、放っておいても上手くなるってあると思う! 必死になって子供育ててたら。
榊 自分は、漠然と考えていたんですよ、子供ができることがお芝居にプラスになるかもしれないっていうことを。真面目に考えるとあんまり根拠はない。母親役とかは実感を持ってできるようになるだろうけど、それ以外の部分でレベルアップするっていうことは、じつはピンと来ていなかったんですね。
でも今のまやさんの話を聞いて、ちょっと実生活で結びつくことがあって。例えば今は、劇団業務をやるにしても、もうあと10分、15分で授乳になるからもっとまとまった時間が取れるときにやろう、この時間は止めておこうって判断してたら、何もできないんですよね。もう細切れの時間でもやるしかない。やるチャンスがいつやってくるか分からない。だから、限られた時間で後回しにせずやるべきことをやる、やっていくっていう習慣になっているんですが、それがお芝居をやる力にもなっていくっていうお話は、自分の今の生活とリンクするところがあって、なるほどと希望を持てました。
小角 きっと上手くなるよ。あとね、効率面に加えて、気持ちの面でも子育てから得るものはあるんじゃないかと思う。
子供って、最初なんか座ることすらできないから、本当に全部やってあげないといけないじゃん? それを、子供って可愛いし大事だし守ってあげたいって思いながらやるわけだけど……。でも全然スムーズにいかない(笑) 子供のためって思ってやってあげていることを、本人がすごく拒否してきたり、これはその子のためって思ってやってるけど本当にその子のためなのか? っていう疑問が湧いてきたり、っていうことの連続じゃん、子育てって。それは本当に複雑だし今まで経験したことのないような葛藤や感情が自分に生まれたりもして。
私なんか短気だから、どうしてもたまに、二歳ぐらいの子供に対してなのに強く言ってしまうこともあって、そのあとで「なんであんな言い方しちゃったんだ……」って思って、泣きながら「ごめんね、ごめんね」って子供に謝ったりして。もう、情緒がカオスじゃん。もちろん恋愛とか親子、友人関係とかでそういう感情の振れ幅を経験している人もいると思うんだけれど、でも、私にとってはかつてない経験で。そんなふうに感情がぐちゃぐちゃになって自己嫌悪を覚えたり、超頑張ってるな自分、って思ったりすることも含めて、人生経験だなァって思う。
それが、『抹消』っていう劇をやったときに活きたんだよね。『抹消』では、私は塾を経営している女性の役で、まずその経営するっていう経験が自分のなかになかったんだけれど、やっぱり今何が自分のなかでそれに近いかなって言ったら、家庭の、子育てを含めた家のことを回すっていう点では、或る種自分がリーダー的な存在だから、経営しているのに近いかなってことで、役に歩み寄れた。
そして、『抹消』ではカズ〔堤和悠樹〕が演じた片桐先生っていう役と対立する役だったんだけど、その片桐先生と私とで、話が通じない、なんかすれちがってしまう、こっちの提案を受け入れてくれない、っていうコミュニケーションのあり様が、子供と話が通じないことと似ているなって思った。こっちが良かれと思ってしたことを、全然受け入れてくれない、全然ちがった対応をされちゃうみたいなところがね。だから、子供を産む前だったら、話の通じない片桐先生に対して、「はあ? なんでこいつこんなに分かんねーの?」っていう感じの演技になってしまっていたと思うんだけど、今は、日々子供からそういうことをされているから、仏の面が出せた。片桐先生に対して、「こういうふうにしてみたらどう?」って、こっちが無理に譲歩して相手に合わせて提案していることを、「それ分かんないっす」みたいに失礼な形で拒絶されたときでも、「うん。そうだよね」みたいな? 仏の演技ができるようになった。
全員 (笑)
小角 私の場合、そういう仏の引き出しは、子供を産む前はなかったから。だから本当に二人とも、人の上に立つ役とか、人を許す、相手を受け流す役とかたぶん上手になると思うよ。ママ役だけではなくて。
榊 面白いですね。相手を受け流すこともできるし、加えて、子供を産む前の「はあ?」っていう演技も引き出しとして持っているってことですもんね。
小角 そう、受け流しながらも内心では「はあ?」って思ってるから(笑)
* * *
小角 役者として復帰したときのために今から取り組んでいること、気をつけていることはありますか。
松尾 私はとにかく、産後四ヶ月後くらいからストレッチと筋トレを毎日するって決めてて、本当に体調が悪いときとかでなければ、基本的にはやってますね。
榊 えらい!
松尾 体力も付いてきた感じはしてて。なんなら産前より引き締まってきたような感じがします。
小角 素晴らしい〜!
榊 体力とか、そういう具体的なことも戻るの怖いなっていう不安に結びついちゃうから、実際に筋力が付くっていう効果だけじゃなくてさ、俳優として戻るために日々ちゃんと取り組んでいるっていうことがあることそのものが、いいね、自信にもつながるし。
小角 筋トレもう五ヶ月やってるってことでしょ。出れるね。もう出れる。
松尾 (笑)
榊 自分のために取れる時間が少ないなかでだからね。すごいよ。毎日この時間にやろうって決めてもやれるとは限らないのに、それでつづけているのはすごいことだ。
松尾 ありがとうございます。嬉しい。頑張ってよかった。
小角 なっちゃんは何かありますか?
榊 私は今は、言い訳程度に図書館で戯曲借りてきて読んでるくらいです。進みは遅すぎるんで、自分は何かやってる、大丈夫、って安心するために読んでいる感じですよ、本当に。
まやさんは?
小角 本当はもっと舞台を観に行ったりしたいんだけれど……この業界自体が子供のリズムにあまり合ってないからさ、基本夜だからね。ソワレでも預ける必要が出てきたりとかで、以前と同じように観に行くには正直高いハードルがある。
でも逆に言うと、自分の企画はすごくいいのよ。自分の都合で稽古時間を決めてとか、できるし。自分の企画じゃないのにも出させてもらいたいんだけれど、なかなかね、時間のやりくりが難しい。もっと預ければいいんだけどね……。
榊 でも、私も自分で企画をしたことがあるからこそ思うけど、自分の企画って、それこそ莫大な仕事量になるじゃないですか? たくさんの時間を割かなければならないし。お子さんが小さいときからそれができるってことは、もうまやさんはどんな状況でもできるってことですよ。
小角 期間限定だからできるんだよ。「みちくさ公演」の三人芝居とか、もっと大きな劇場でやったらって言われたりもしたけど、無理。あれ以上大きな規模にして予算も考えて、ってなると無理。「みちくさ公演」の規模でもその期間はもうほんとに、Youtubeを観る時間がない、Niziuを観る時間がほんとにないっていう期間が二、三ヶ月つづく(笑) 子供を世話しながら台詞を覚えて、宣伝とか制作業務もして、そのなかでも寝ないといけないとなると全然時間がなくて。だから、期間限定だからできること。
人にも頼らなくちゃいけない部分もあるんだけれど、私は頼るのが苦手で、やっちゃうんだよね自分で。めちゃくちゃ自分でやっちゃう。保育園とかも、入れれば良かったんだけれど、入れなかったんだ。
榊 自宅保育って言ってましたよね。
小角 じつはそこにすごくこだわっていたわけじゃないんだけれど。役者の仕事って、やっぱり毎日毎日あるわけじゃないじゃん? 空いている時間が結構あるから、預けないでもいけるなって思うと、なんとなく預けなくなっちゃう。だからむしろみんなには、「預ける」っていう手段を上手く使ってほしいなと思うけれど。
りっちゃんは一時保育とかで預けたことはある?
松尾 ないですね。家族にしか預けてないです。
小角 一時保育を使ってみたらどう? って自分も使ってないのに勧めるのはアレだけど。
松尾 ただ、自分はもともとダメ人間なので、預けたら預けたで、その生まれたフリータイムをどういうふうに使えるのか……。家でアニメ観て終わり、みたいになってしまうかもしれません。なんか、娘が生まれてから180度人間が変わったみたいな、整った生活に今なっているんですが、いなくなったらいなくなったでどうなるだろうと思って、保育園も今どうしようかなって考えている最中です。
でも預けた方が、何かしらやりたいと思ったときにできますもんね。
小角 少なくとも登録だけしておくとかね。役者さんで難しいのは、仕事がコンスタントにあるとはかぎらないないから、保育園にがっつり入れるほどじゃないにしても、いざ何か仕事のチャンスがあったときに預け先がない、どうしようってなっちゃうことがある。私もそういうことがあって、でも私は親に頼れたから親に預けてたんだけど、それでも、そんな恵まれた環境にあってすらままならなくて断わった話とかもあった。
だから保育園の一時保育とかは登録しておくといいと思う。役者をしている友人でも、登録しておいて、仕事が入ったら一時的に預けるっていうことを0歳児のときからやっている人はいる。そういうふうに、ちょっと何かあったとき預けられる手段を持っていないと、役者の仕事を続けることは難しいよね。子供を連れていける稽古場ばっかりじゃないし、稽古場はまだしも舞台の本番や撮影には連れていけないから。
松尾 そうですよね……。
* * *
小角 なっちゃんが事前に送ってくれたトークテーマで、「かぎりある子供との時間のなかで、お芝居に費やす時間のことをどう思いますか」っていうのがあって。ここまでの話は、子供を預けたり、周囲に頼ったりしながら、自分のやりたいこと(演劇)を頑張ってやろうねっていう話だったんだけれど、このテーマはちょっと、考えてみたいことだよね。
なっちゃん自身はどういうふうに考えているの。
榊 今、子供の成長が早すぎることにびっくりしちゃってるんです。いつの間にかあやされて笑うようになりましたね、とか。小さいことだけど、ほんとに日々成長していく様を見せつけられていて。だから、ちょっと目を離しているとその成長を見逃しちゃうなっていう思いもあるんです。
お芝居をやるってなったら、物理的にはどうしても子供と接する時間は減っちゃうじゃないですか。例えば台詞を覚えるっていう作業と、育児は同時には無理なはずで。私のことで言えば、まだまだ子供は寝ている時間も長いし、よく寝るし、寝ているあいだに自分ができることは結構たくさんあって、気持ち的に余裕もあるんですけど、これから先、もっと子供の起きてる時間が長くなったりしていったら、どうなっていくんだろうって思って。
松尾 私は、お芝居とは別なんですけど、もともとやってたライバー(配信者)の活動を最近再開したんです。やりたいことだというのもあるし、気分転換になるかなと思って。そのあいだは子供を家族に見てもらったり、ベビーモニターで見てたりしているんですが、そうすると、やっぱり子供と接する時間が一日のなかで結構減りました。「ああしてたよ」「こうしてたよ」っていう自分の知らない子供の様子について人づてに聞いたりすることが増えて。だから見逃してしまっている成長もあるんだろうなと思う。
でも、ママから離れていることで起こる子供の成長もあると思うんですね。例えば、保育園に預けたらそこでお友達が増えた、とか。ママがいないことで成長することもある。家にないからこそできる成長もある。だから、見逃しちゃうのは悲しいけれど、それはそれで良いことだなって思って。私のなかでは折り合いがついています。
小角 なるほどね。もう、このテーマ自体が尊いよね。「かぎりある子供との時間のなかで、お芝居に費やす時間のことをどう思いますか」って。なっちゃんの考え自体が尊いなって思うし、育てやすいタイプのお子さんなのかもしれないけど、なっちゃん自身が母親として、すごく明るくて、心のバランスが健康的に取れているんだなって思う。
私が一年で三本くらい舞台に立ったっていうのが、うちの子が一歳になったころでした。そのときは本当に、一日朝ちょっとだけ会ってバイバイする、みたいなときもあって、そうすると、やっぱりさみしかったけれど、そのさみしい分、稽古場行っている時間頑張ろうと思えたし、家に帰ってからは家のことを頑張ろうとも思えた。
似たようなこととして……わが家は夫婦でお互いに出掛けたいときは出掛けようっていうことにしてて、或る日、特に仕事とかでもなく外に遊びに行かせてもらってたんだけど、帰ってきたときに子供がすごい喜んでくれるのを見て、「ああ、今日は出掛けてすごい楽しかったけれど、子供のことを思うと、出掛けるのがもったいないな」って思ったの。でも同時に、そういうふうに、子供といる時間の大切さを改めて感じるためにこそ出掛けるんじゃん、とも思ったの。
やっぱり、子供の前にいる自分って素の自分ではなくない? あくまでママとしての自分という感じがして。でも本来はママとしての自分だけじゃなくて、いろんな自分でいることは大事だと思うし、そもそも役者をやるっていうこと自体が自分のアイデンティティにもなっていて。子供を産む前からすごく頑張ってきた仕事をやることで、自分の生命力がよみがえってくるっていうこともあるはずで。それでこそ、また子供とよりいい気持ちで向き合えるんじゃないかなと思う。
榊 なるほど。子供との時間がかぎりある、貴重なものだって感じられるのも、離れていることがあるからこそなのかな。ずーっと一緒にいると、それがものすごく貴重な尊い時間だっていうことを忘れちゃいそうだし、今まやさんが言ってたみたいに、ママが子育てだけじゃなく、べつのところでべつのことを生き生きと頑張っているっていうことも、子供にとって良い面があったりするんでしょうね。
小角 そう思いたいよね。
ママが自分を大事にする。それがベースだと思う。私は今、乳幼児の睡眠のコンサルタントの資格を取って、そっちの仕事もちょっとはじめたんですけど、それで0歳、1歳くらいのお子さんのママたちと話していると、やっぱりみんな子供のことを思っている、「子供にとっていいのか」っていうことばかり考えてる。でも、私は「ママ自身も大事だよ」って言いたくなっちゃう。自分が楽しい、心地よいっていうことを忘れないでほしいし、やりたいことはやっていいんだよって。そのやりたいことが演劇、芝居だと、ちょっと単純な仕事だっていうふうには言えなくて、りっちゃんが言ってたみたいに「修行」みたいな面もあるし、バランスの取り方が難しいんだけれど、自分なりの良いバランスを見つけてやれたらいいよね。
* * *
小角 最後に劇団の話に戻って終わりにしましょうか。今後劇団とどうかかわっていきたいか。劇団にいつづける意味ってなんだろうかとか。
私はね、また企画をスタジオ空洞でやりたいと思っている。から、是非二人も一緒にやりましょう。稽古時間はお昼がいいでしょ?(笑) そんな感じで一緒にやりましょう。
あと、できれば本公演にもたまには出たいなって気持ちもある。今、『うれしい悲鳴』のあの客演さんがいっぱいいる空気感、あれ懐かしくない?
榊 そうですね。っていうか『うれしい悲鳴』の初演って、私とまやさんが初めて共演した舞台じゃないですか。
小角 『うれしい悲鳴』再々演、正直出たかったよねー。ほんとにいい作品だからね。若い客演さんがいっぱいで、稽古場でキャスティングとかしているあの雰囲気が、すっごい懐かしい。今の自分がその場に行っても蚊帳の外なんだけれど、役者さんのあいだでライバル意識がぶつかり合って、ドキドキしながら「あの子すごいな」「あの子に負けないぞ」って意識し合うみたいな空気感を浴びたいな、って思っちゃって。
そういう意味で本公演も出たいなっていう夢は持ってる。ただ、やっぱり夜稽古は難しいから、そこは応相談ってことになるけれど。
榊 実際に出演する以外にも、昨日みたいに劇団が組織的に動いて準備してくれたイベントに参加させてもらったりしたのは、すごくありがたいことだったし、劇団にいつづける意味になるのかなって思います。出演、っていうことでも、やっぱり劇団公演の方が出演しやすいんだろうなって思うから、それは劇団にいつづけるメリットなんでしょうね。まだ私が実感してないことだから想像になってしまうけれど。
あと、ずっと一緒に劇団でやってきて、みんなそれぞれライフステージも変わってきたりして、みんなが「出産おめでとー」みたいに喜んでくれたりするもの単純に嬉しいですよね。
松尾 私は広田さんには、公演に出たいから劇団に所属していたいですってもう伝えていて。それに対して広田さんも、抜ける必要はないからいたらいいんじゃない、っておっしゃってくれたんですけど。
でも、それだけじゃなく、やっぱり豊橋の経験を踏まえて、あそこで稽古場に娘を連れて来てただいるだけでいい、みたいな本当に贅沢な経験をさせてもらうと、子育て的にも風通しのいい現場・コミュニティーを自分から手放す意味がないなって思います。ママとしても、アマヤドリに存在できるってことは嬉しいことです。8月の『牢獄の森』でもお昼の時間帯からの稽古があって、来たらいいよって言ってくださっているので、また娘を連れてお邪魔しようかなって思ってます。
小角 じゃ、行こう、みんなで。子供連れてこう。
全員 (笑)


小角まや
2012年、アマヤドリに入団。2021年第一子を出産。
みちくさ公演『抹消/解除』『代わりの男のその代わり』のプロデュースも行う。
再来年あたりに5人芝居をやりたい(気持ち)。
乳幼児睡眠コンサルタント・すいすいみん子としても活動。
https://www.instagram.com/suisuiminko/

榊菜津美
2013年アマヤドリ入団。
劇団外作品にも精力的に出演し、プロデュースも行う。
2024年5月第一子出産。
誰に強いられた訳でもない中での産前産後の変わらぬ劇団業務遂行っぷりに、周りからちょっと引かれている。

松尾理代
2021年、アマヤドリに入団。
2023年第一子を出産。
アマヤドリ20周年記念公演 第二弾『水』、第三弾『純愛、不倫、あるいは単一性の中にあるダイバーシティについて』に出演。
先月末からぬるっと復職。