「悪と自由」三部作完結記念!
アマヤドリ古参劇団員座談会・中編
長く劇団員をやってきた古参三人で色々語ってもらいましたっ!
【中村早香×笠井里美×松下仁】
※司会担当は「せいま」こと沼田星麻さんです!
※注釈部分の敬称略
(前編からのつづきです)
◆◆◆互いに互いのことを語る(第一印象)
───今度はちょっと話を変えて、お互いの第一印象などを語っていただけますか。
中村:第一印象……。
───早香さんは先に劇団にいて、あとから入ってきた二人に出会ったということになりますけど。
中村:里美はねー、最初は、ほんとにねー、素直で可愛い子だった!
一同:(爆笑)
中村:もうほんとなんか、あー可愛い子入ってきたなーって思ってたら……なんか……なんか! ……どんどん本性をあらわしてきたの! なんか……なんだろね、本性って、べつに悪い意味じゃないけど、なんか最初はほんとに静かな普通に可愛い子だなーって思ってた、んだけど、……実際はすごい気が強いし、言うことははっきり言うし、下ネタすごいし、……ああ、しっかりした子なんだなって。思いました。
笠井:そうだったねー。最初はもう猫何重にもかぶってたから。
中村:何重にもかぶってたよほんとに。でも結構すぐはがれたけど。
笠井:そうだったよねー♪
中村:まっつんはね、……まっつんが入るときのワークショップ・オーディションにあたしも顔出してたんだけど、そのときに、まっつんいいと思いますよ! ってあたし広田さんに後押ししたの。
松下:そうだったんだ……。
中村:だからあたしが後押ししたからまっつんはここにいるの!
松下:一緒に組んでやりましたよね。ワークショップで。
中村:一緒に組んだ。それで即興でやったエチュードみたいなので、すごいまっつんがハツラツとしててね、なんか技術とかじゃなくて、とにかく元気だったの。でも実際入ってきてみたらすごいネガティヴで……。
一同:(笑)
中村:「オーディションの松下はどこ行った?」みたいな気持になった。オーディションのときは、一人ですごい元気なことやってたの、周りを置いてくぐらいの勢いで。で、すごい威勢のいい子だなーと思って「まっつんいいんじゃないですか」って推したのに……。
松下:そのときは……ビビりながらも一生懸命やったんでしょうね。やるしかねえと思って。
───でも松下さんが入ってからは、どんどん印象は変わっていって……。
中村:うん、そのあとしばらくは、出し切らない、っていうかそういう時期が長くつづいて。でも、『愛にキて』っていう作品でいわゆるオカマ役というか、なんかバーの「マスター」と「ママ」を兼ねている、「ママスター」ていう役をやったんだよね。そこで何かが吹っ切れたというか(笑) すごい自分を出してくるようになった。……たぶん、最初の頃は、やることなすこと全部「小賢しい」「小賢しい」って言われてて、「じゃあ小賢しくない演技って何だろう」っていうんで悩んで、どんどん、ちぢこまってったんだよね。
松下:そう。ほんと何もしないみたいな感じになってしまって……。
中村:でもそこで『愛にキて』をやって……。
笠井:そうだったねーまっつんは。
松下:やりましたねー「ママスター」。
笠井:……わたし早香さんはね、とっにかく「汗かいてる人」って印象。
中村:(笑)うそー! そんな印象?
笠井:だってなんかすげえ人一倍やってるんだもん……なんか訓練的なことを。芝居に出たときも、もうとっにかく練習するの。アップでも、当初から一人で自主的にいろいろやってて。あたしが「この劇団ってこういう劇団なんだー」って思うくらいだった。
中村:そうかー。
笠井:当時は、今みたいにこんな仲良くなれるとは全然思わなかった。超距離あった。すっごい壁を感じた。
中村:人見知りだからね。最初はまず壁をつくるところから始めるの人間関係は。
笠井:あはは。
中村:いったん壁を外すとすごく懐くんだけど、壁を外すまでが長い、っていうね。
笠井:そうだよねー。
───松下さんは、早香さんや里美さんに対しては?
松下:僕……正直、第一印象は誰も覚えてないんですよ。僕はもう落ちこぼれ街道まっしぐらだったので、自分自身のことで一杯一杯で、もう周りにまったく目がいってなかった。……ただ、最古の記憶として、早香さんと一番最初に話したなっていうので覚えてるのが、ワークショップ・オーディションに行く途中に、「コンビニって寄ります?」って早香さんに訊いたこと。それを覚えてます。
中村:それ、ただの事務会話じゃん(笑)
松下:笠井さんは、なんか、稽古帰りに、ずーみーとか小寺(悠介)とかと一緒に帰っている道中に、当時笠井さんの付き合ってた人の話を聞いたのを、覚えてます。
笠井:付き合ってないよ? 当時好きだった人の話だよ。
松下:あ、そうそう。
笠井:あたしがねー、当時実らない恋をしてたんだよ。
───あれ……でもそういう話をする仲ではあったんですね。
笠井:いや、まっつんはいただけ。そこに。
一同:(爆笑)
笠井:あたしはずーみーに話してて、まっつんはそこにいて聞いただけ。
松下:そうでした……。
笠井:あははは。ひどいねー。……まっつんに対しては、あたしはだからほんと、当時は「この人はなんでこんなにうじうじしてんだろう?」って、もうほんとずーっと思ってて。『愛にキて』の「ママスター」をやるまで二年ぐらいのあいだずーっと。
松下:一回こう、僕が稽古場から一人とぼとぼ帰ってたら、二人乗りして帰っていく笠井さんが「鬱っぽいよー!」って後ろから声を掛けて去っていくという事案が……。
一同:(爆笑)
松下:そんなこともありました。
笠井:ひどいねー! いや、もうほんと、二十二でひょっとこ乱舞に入って、その頃はあたしほんと調子乗ってたからさ、もうねー、まっつんのことを、ほんとに、もうほんとに、クズだと思っていた。
一同:(大爆笑)
松下:基本的人権がない感じで(笑)
沼田(司会):今、僕がアマヤドリに関わりだして二年ぐらいですけれど、今はもう、頼りがいのある先輩だなって感じてますよ。それは……。
笠井:それは……何だろうね? でもだから、そう、劇団のなかで、こんだけ駄目かもって思われてた人が、劇団をつづけていくことによって成長することができたんだっていう、これもまた一つの模範なのかな? だから広田さんにとっても、まっつんの存在っていうのは、自分の演出家としての育成の仕方が間違ってなかったっていうことの証、じゃないけど、なんかそんなふうな支えになってるよね、ある意味。
松下:ああ……なんかそういうことを、広田さんにも一度言われたことがあります。
沼田(司会):なるほど……。
笠井:……でも星麻は、第一印象では劇団員になるとは思わなかった。
中村:ああ、あたしも。
沼田(司会):はい……それは、そうだと思います。僕も最初は劇団員になるつもりではなかったので。アマヤドリがどうとかではなくて、どこかに所属するというのは俺は無理だなって思っていて。
笠井:うん、言ってたよ実際そうやって。『雨天決行 season.1』〔※2013年6月〕のとき。
沼田(司会):言ってましたねたぶん。所属は無理だって思ってたんです。
松下:なんで変わったの?
沼田(司会):うーん、何でしょうね? まあ気が合ったみたいなことが一番なのかな。劇団員メンバーと気が合ったっていうのが一番大きいです。
笠井:広田さんとじゃないんだ?
沼田(司会):広田さんとじゃないです(笑) 広田さんとは、演出家と俳優との関わりになるので、そこはわりとなんとでもなるんですよ。そういう関係をつづけていくのは苦手じゃないんですけど……俳優陣の方はこう、「仲間」、みたいなところじゃないですか。演出家と俳優との距離よりも全然近いので……。
笠井:こいつらとだったら上手くやれるのかな、みたいな?
沼田(司会):そんな感じがあったんですよ。
笠井:なんか最初はこんなに、星麻が一つのことを考える人だとは思ってなかった。いわゆる、今どきの若者っぽいのかなって、当時は今よりももっと若かったし、……なんか、うちらって気持悪いくらい一つのことを色々言ってさ、多角的に色んなことを言い合ってさ、良いこと悪いこと出し合ったりするじゃん。そういうのを馬鹿らしいって感じてるんじゃないかなって、勝手に思ってた。
中村:あたしは……『太陽とサヨナラ』のときに、星麻の自己紹介映像みたいなのを撮ったんだけどね、今回の公演への意気込みとか、好きな芝居とか、俳優にとって必要なものは何ですか? とか星麻に訊いてたら、もうほんと、語る語る(笑) そこで「なんてしっかりしたヴィジョンを持った子なんだ!」って印象変わったの。「しっかりしてるわー」って。
沼田(司会):(笑)
松下:劇団に入るときに、すごい挨拶をしてたよね。
笠井:ああ! あれすごい良かった。なんか改まった感じでね、しっかり、
沼田(司会):いやー考えましたねあれは。初めて劇団員になるっていうことで、劇団会議に行く電車のなかで絶対何か言わなきゃって、考えて。
一同:へー。
沼田(司会):あ、でも劇団に入ったのには、まあ広田さんの影響も大きいですけどね?
笠井:取って付けたように(笑)
沼田(司会):(笑)いや、そんなことないです。何人かの演出家と関わってみて、明らかに広田さんは教育者の面が大きくて。あの人は個人を見てくれるので。この役をやる星麻っていうよりは、まず星麻がどうか? っていうところからスタートしてくれるので。やっぱりそういう広田さんの存在は大きかったですよ。
笠井:ふふふ。
◆◆◆互いに互いのことを語る(俳優として)
───次は、ちょっと語り難いことかもしれないですけれど、俳優としてお互いをどう見ているかということを、話していただけるでしょうか。
中村:俳優としての印象……。
松下:……早香さん、身体すごいっすよね。ほんとキレッキレになって帰ってきましたよね利賀村から。見てるとすごいっす。
中村:でもあたし普通の会話劇からは離れちゃってるからねえ……。
松下:これ僕『ぬれぎぬ』のときに思ったんですけど、やっぱ……なんて言うんですか、日常会話みたいなことをやろうとするときに、ほんとただリラックスしてるっていうだけの身体じゃなくて、力抜いてるんだけど芯があるなーっていうのを、早香さんを見てて思って。芯がある上でリラックスできてる。
中村:そこはねー……頑張ってやろうと思ってるところかも。そこだけは。
松下:あれは衝撃的でしたよ。
笠井:あと、広田さんの説明科白が上手い、早香さんは。やっぱ長年説明させられてきただけあって。
中村:(笑)説明担当だからねあたし。
笠井:『月の剥がれる』のときも思ったし……だってあのときなんて本番中にさ、ソワレだけの日かな、朝来ていきなり、ちょっとした長い科白をバーンって言えみたいな感じになって、でもスッとやれてたもんね。
中村:あたし里美はね、感情的にやっているように見せて実はすごく計算してやっていて、それが、すごいと思う。ちゃんと自分が入り込んでいるように見せるでしょ? なんかほら、自分がこう感情的になるだけだと見世物として成立するときとしないときが不安定だと思うんだけど、ちゃんと成立するように計算しているから……。で、それを計算と思わせないからさ、こっち側に。
松下:舞台上での自由さっていうのは、里美さんすさまじいですよね。それがもう、僕はガチガチになっちゃうから……。なんか、アクシデントを楽しむんですよこの人。
笠井:ああー。楽しいよねー。
松下:あんなの信じられないですよ。
笠井:えー、だって楽しいじゃん。相手役が困ってるのが楽しい。「あははは! 今こいつもう頭パンクしてるわ」って。
松下:そうなんでしょうね。いやー、僕はそんな自由にはまだなれないなあ。
笠井:なんか照れるねこういうのね(笑)
───褒め合いみたいになっちゃいますね。
松下:……じゃあ、貶してください(笑)
一同:(笑)
笠井:まっつんはねー、四、五年前だったらもう良いところなんて一つもないって言ってたと思うんだけど。
松下:(笑)
笠井:最近のまっつんは……なんだろう、「何もしない」っていうのを極めてるよね。
中村:何もしないところで、「あ、こんなのがあったんだ」っていうのを見せてくれる感じかな。何にもしないっていうだけだとさ、なんか、ほんとに何も存在感がなくなっちゃう人が多いけど、まっつんは何もないところに安定していられる、それが表現になってきたよね。
松下:おお……。なんて反応したらいいか分からないですけど。
笠井:あ、でも、あれかな……『非常の階段』のときに袖で見てて思ったんだけど、やっぱり、まっつんは広田さんの科白が合ってるのかもね。
松下:それはあるでしょうね……。なんか、客演とかあまりしてこなかったですからねえ。最近はようやく外でやらせてもらえる機会も増えてきましたけど、ずーっと広田さんとやってきたから馴染んでるんでしょうね。
───今ちょっと話題に出たので訊いてみたいんですが……広田さんの科白、広田さんの戯曲の特徴というものを、みなさんどういうふうに見ているんでしょうか? 作家としての広田さんともみなさん付き合い長いですけれども……。
笠井:うーん。……一番の特徴は、お客さんに向かって話す、のが多い。説明しちゃう。
中村:長台詞も多いしね。一人の喋る分量が長い、一回一回の。会話じゃなくってなんだろうこれは、作文? みたいな。
笠井:それをなんか、『月の剥がれる』を観たチョウさんが「ポエムリーディング」って名付けたことがあって、広田さんはすごい納得してたよね。あ、『フリル』のときだったかなそれは。そういうことをチョウさんと話してた気がする。
───へー。
笠井:戯曲中に一人で喋ってることが多いよね。
中村:多いねー。会話っていう感じの部分もあるけど、量でいうと、なんか、ばぁーーって三十行ぐらい喋って、「うん」、さらに三十行喋って、「うん」、みたいな。
笠井:でも会話よりそういうのの方が面白い、広田さんの書く文章は。……あと、ケンカが、上手い。
一同:(笑)
中村:本人ケンカっ早いからなー。
笠井:ケンカしている経験値が高いから、そこは生き生きと書けるよね(笑)
中村:あと、なんだかんだでロマンチック。
笠井:ああ……ロマンチックね。
中村:そのシーンをそんな科白でそういうふうに持ってくのかー、はぁーこの人が、みたいな。
一同:(爆笑)
───たしかに普段の広田さんからだと、あまりロマンチックだってイメージは浮かびづらいですね。
松下:あと、僕が思うのは、なんかあの、広田さんが書きたいなと思っていること、書きたいなと思っている対象との、距離感。その距離感を見失わないところが特徴なんじゃないですかね。対象との関係によっては、それを書こうとする自分は何様だよ、とか、何を書いたって嘘にしかならねーよ、というような難しさがあって──たとえば被災者の痛みとか──それでも、広田さんは書こうとする。被災者の痛みなんて被災者じゃない自分の立場じゃ全然分からない、でもそれを書くとしたら、どの立場から自分は書いているのか、っていうことを……なんかね、つねにそういう距離感を見失わないところが、好きかな。
───その距離感が戯曲にあらわれている、と。
松下:あらわれているんじゃないかなあ。
◆◆◆印象に残っている広田さんの言葉
───広田さんのことに話題が移ってきましたんで……。これまでに広田さんから言われて、印象に残っている言葉とか、そういうのって何か、ありますかね?
笠井:「死ね」じゃない?(笑)
松下:いや、そうじゃなくて、一杯ありますよ。この質問訊かれるって知って、事前に紙に書いてきたんですけど。
一同:(爆笑)
笠井:すげー! 超書いてある!
松下:言っていきますよ。「小賢しい」。「俺はおまえの母ちゃんじゃねえ」。「一度死んで出直してこい」。「おまえはどこにいるんだ。飛べ!」。
中村:こんな劇的なこと言われたことないよあたし。
松下:「やりたいことがなくて生きてるなら、生きることがしたいんだ!」。
笠井:おおおロマンチストっぽい。
中村:ポエマーだから(笑)
───どうなんですか? そういうこと言われて。
松下:いや、この最後に言った「生きることがしたいんだ!」っていうのは、「へぇー、それでいいんだ」「それが答えになるんだ」って、なんかちょっと感銘を受けました。自分のなかで化学反応が起こった。「ああ、じゃ生きてみよう」って思って。「肉を食べよう」って。
一同:(笑)
中村:なんか人生のことを言われてるよね、役者としてっていうよりは。
松下:うん。たぶん僕は、ずーっと「僕なんか駄目だ」「僕なんか」っていうふうに生きてきていたんだけど、それを、なんか撥ね返すようなことをくり返し広田さんに言われて、……自信が付いてきたのかな。
中村:わりと「僕なんか駄目ですよね」みたいな手紙を送ってるんだよね、広田さんに?
松下:そうですねえ。
笠井:それで「俺はおまえの母ちゃんじゃない」(笑)
松下:結果そんなふうに叱られるわけです。
笠井:(笑)……あたしはね、広田さんから、こんなこと人から言われたの初めてっていうようなことを、言われたことがあって。
───はい。
笠井:「きみの両親に感謝する」みたいなことを。言われた。
中村:???
笠井:「きみをこんなふうに育ててくれて、きみの両親に感謝するよ」みたいな。そんなこと言われて、いやーこんなこと他人に言う人いるんだーって思って。驚いた。
中村:え、それどういうタイミングで言われたの?
笠井:たぶん『でも時々動いてるわ』のあとか、その前後だったと思うんだけど。広田さんってさ、もう新しく入った人に対しては熱心に執着して、その人のことすっごい見るじゃない。そのときにあたし広田さんからすっごく見られてて、で、すげー褒められて、なんか……まっつんと正反対ですっげー褒められてて当初。で、そのときに……「きみをこんなふうに育ててくれた両親、きっとすごく愛情を込めて育てたからきみはこんな子になったんだ」みたいな流れで、「きみの両親に感謝するよ」ってことを……なんか、結構涙でうるんだ感じで言われて。
一同:(爆笑)
笠井:この人そんなに他人に対して感動できるんだ!って思って。なんかあたし自身のことを言われてるんだけど、それ以上になんかこう、俯瞰して見ちゃって、「こんなこと言うんだ人間って!」って思っちゃった。
中村:最大級の褒め言葉じゃんそれ。(松下さんの方を見て)……この落差なに?
一同:(大爆笑)
中村:同期なのにー。同期の片方はクビを切られそうになってて、片方は生まれてきたことに感謝されて。
松下:(笑)
笠井:でもこの話初めて言ったよねあたし。そんなことを言われたってことを。
中村:うん。初めて聞いた。
笠井:それをすごい覚えてますね。……そうそう、だからすごく感激屋さんなんだと思う、広田さんは。
中村:しょっちゅう泣いてるよねー。
笠井:しょっちゅう泣いてる!
───そうなんですか? 僕見たことないですけど。
笠井:うそ、泣いてるよ!
中村:前に劇団に竹内さんっていう広田さんのマブダチ、っていうか師匠みたいな、相談役みたいな人がいたの。その人が劇団を辞めるってなったときには、みんなの前で泣いた。ほんと……「えっ? みんなの前だよ?」って驚いたけど。それで当時劇団員だった伊東沙保に「大丈夫だから、大丈夫だから」って超なぐさめられて。あたしはむしろ、なんか笑いそうになっちゃった。ひゃーーって。
笠井:あははははは!
中村:大の大人が、しかも男の人があんな本気で泣く姿ってあたし初めて見たからさ、結構衝撃的で……なんか、びっくりした。
笠井:そうだねー。だってほら、このあいだデンちゃん〔※キム・デフン。『悪い冗談』キャストの韓国人俳優。2011年3~4月に広田淳一演出の『ドン・ジュアン』に参加〕も言ってたけどさ、震災のときにも泣いたんでしょ。韓国で震災のニュースを見て号泣したって。
松下:僕が覚えてるのは、『うれしい悲鳴』初演のゲネが終わったあとかな。マキノ久太郎という役が一番最後に、吉祥寺シアターの奥の方で喋るシーンがあるんですけど、そのシーンについて、ゲネが終わってから、「やっと分かったよ、あのシーンがどういうシーンなのか……」って言いながら、広田さん泣いてた。
一同:(笑)
笠井:感激屋。ほっんとに感激屋。
───すごいですね(笑) 早香さんは、個人的に印象に残っている言葉はありますか。
中村:あたしはね……「おまえは不真面目だ」って言われた。
一同:ええええーーーーーーーーっ!!!
笠井:一番真面目だよね?
中村:その言葉が残ってる。当時は周りが出来過ぎてあたしは落ちこぼれだったんだけど、でもなにしても追い付けない分、努力だけはしようと思って、わりと練習とかは頑張ってると思ってたの、自分では。そしたら「おまえは不真面目だ」って言われて。「あたし真面目さだけが取り柄なのにほかに何が残るのー?」って、結構衝撃的だった。
笠井:いつ言われたの?
中村:『馬鹿はおまえだ』の初演のとき〔※2003年3月〕。たぶんね、広田さんの言ってる意味は練習量が少ないとかじゃなくて、できることしかやってないっていう意味で。そう、もっと違う取り組み方があるはずなんだっていうことで。あたしは昔は、ほんとに……なんだろう、無難なことしかしないみたいな、今もちょっとそういう傾向あるけど、昔はほんとに無難なことしかしなくって、80%の演技しかずっとしてなかったの。ゼロも出さないけど100%も出さないみたいな。それが、不真面目だってことなんだと思う。失敗してもいいから100%の演技をしろっていう意味で言われたの。……でも当時はそれがちょっとよく分かんなくって、しかもいきなり言われたのコンビニで。コンビニでお茶買ってたら、広田さんがふっとやってきて、「おまえは不真面目だよ」って。
笠井:ひえーーー。
中村:そんなタイミングで言われたから、衝撃的で、ほんと悩んだ。……でもよくよく考えてあとから、ああ、そういう意味だったんだなってのが分かった。その公演のときには分からなかったんだけど。分かったのは、『愛にキて』の初演のとき。そのときになって、やっと分かったの。
松下:はぁー……。
中村:それまでは分かんなかったんだ。
───へぇー……。
笠井:……え、星麻は、なにかある? 広田さんの言葉。
沼田(司会):え、僕ですか? 僕は……ないですかね。これからなんでしょうね。
笠井:でもこのあいだ言われたじゃん、「俺、星麻のことほんとに好きだ」って。
中村:あ、言ってた(笑)
笠井:あれたぶん本気だよ?(真顔)
沼田(司会):舞台上でランニングしてたらね……(笑)
笠井:「俺星麻がランニングしてる姿ほんとに好きなんだよなー。……っていうか、俺、星麻が好きだ」。
一同:(爆笑)
笠井:全員の前で言ってたよね。
沼田(司会):あれは……無視できなかったですね。一生懸命無視してランニングしようとしたけど、無理でした(笑) もうちょっとジョークっぽく言ってくれたらまだしも……。
笠井:本気で言ってたよね(笑)
(つづく)