新作公演『代わりの男のその代わり』
ダブルキャストで同じ役を演じる小角まや、相葉りこに
アマヤドリのことやお互いのことを、
ざっくばらんに語ってもらいました。
※小角まや(以下、まや)と相葉りこ(以下、りこ)
まや りこはアマヤドリにもう6年近く居るよね。最近、どうですか?
りこ 最初の3年は「アマヤドリに入り浸るぞ!」っていう目的があったんですけど、その後の4年はコロナ禍というのもあって劇団自体の公演が以前よりかなり少なくなってしまったので、ゆったりだけど年数が経っちゃったなっていう感じは正直あるかもです。
まや なるほどね〜。
りこ そう。だから最初の3年程の密度がこの4年間は正直なくって……だから今回久しぶりにがっつり会話劇で、すごく楽しみにしてるんです。
まや この前『天国への登り方』にも出ていたけど、最近のアマヤドリで、稽古場にいる時の意識とかは以前と何か変わったりしたの?
りこ この3、4年でヨガの仕事を始めたっていうこともあって、みんなの身体を見る目線は圧倒的に変わったかもしれないです(笑) 思考と身体の使い方ってリンクしてるとも思ってて、「この人はこういう風に思考するからこういう踊り方になるんだな」とか考えながら見ちゃいます。
まや へぇー!
りこ そうなんですよ!『天国への登り方』の稽古場ではアップを仕切る機会をもらったのですが、それも新しい視点でアマヤドリを見る時間になりましたね。やっぱり、俳優って自我が強い生き物だと(笑) なんていうんですかね、他のヨガのクラスでやってるのとは全然違う感覚なんですよ、衝撃的な感覚。
まや すごい気になる!もうちょっと詳しく教えて!
りこ 俳優さんあるあるみたいなのが自分の中にあって。ダンスを長年やってきた俳優さんは特に「形の綺麗さ」を大事にするんですよね。とりあえずこれが綺麗に見える! って形を整える的な、動きによって変わる内面の変化よりも、見栄えの良さを先に求めるというか、美しく動くのをある種の癖でやる人もいたりしますし。でも、その中でそんな自分に気づく人もいる。
一方で、多分柔軟性とかが足りてなくても、今までの人生の中で「あ、この筋肉はスキーの時にこれで使ったぞ」ってちゃんと経験と紐づけていて筋肉痛になる箇所が適確っていう俳優さんもいたりして。そういう感じで踊りは得意じゃなくても正しい使い方ができる人もいれば、一瞬動けそうに見えてるのに毎回全然違うところが筋肉痛になっちゃう、みたいな人もいておもしろいです。あとは言われた事に対して「それはちょっと飲み込めないです」みたいな、自分の文脈にない身体の使い方だとキャパオーバーになっちゃう俳優さんもいたりもして(笑) そういう意味では、元々ヨガを学びたいって思ってる人たちではないから、自分の身体をこういう風に使うっていう筋道みたいなものが主張的で、自分の納得感ありきで動いてて。俳優さんだとこんな感じで咀嚼してくんだっていうのがすごく興味深かったですね。
まや えー、全部バレちゃうんだ! 怖いね(笑)
りこ まやさんはどうですか? 劇団との距離感が一番変わったのって多分、まやさんですよね。
まや 妊娠・出産でお休みして以降のアマヤドリ出演は今回二本目なんだよね。だから外から見る機会が前よりすごく増えたんだけど、みんな上手いなぁ〜! って思っちゃう。
りこ なんでそんなに褒め専になっちゃったんですか!
まや みんなで合わせて動くのとかめちゃくちゃ揃ってて。心から素晴らしいなと。
りこ すげぇ(笑)
まや 『青いポスト』観た時もすごく思ったし、『天国への登り方 』も凄かった! 作品に出続けてた時は、自分が身体を使うことがみんなに比べると得意じゃないっていうこともあって、「この程度の訓練しかしてなくて“アマヤドリはすごく身体的な表現をする“とかって言われちゃうけどいいのかな?」みたいな、引け目みたいなものがあったんだよね。もちろん、動ける子たちの中に私のような苦手な人をうまく配置して誤魔化して、という劇団としてのテクニックもあったとは思うんだけど。とにかく、外から見たら全員がすごく訓練されてるように見えて!
りこ え〜!
まや お芝居のパートでも、ちょっと馬鹿みたいな感想なんだけど、みんなキラキラしてる。本当にそれぞれ役者さんとしての魅力があって! これは私が子供を産んでちょっと大人になった事で芽生えた人類愛みたいなものかもしれないけど。
りこ まやさんって観に来てくれた時に、ホントびっくりするぐらい、時給払われてるのか? って思うぐらい大絶賛してくれますよね(笑) 本当に励まされるんですよ! それに、団体として、まやさんのような立場の人に褒めてもらえるのはすごく嬉しいことだなと思います。離れて改めて惚れ直してもらうじゃないですけど、元々はまやさん達が作ったものを引き継いだわけじゃないですか? それをあらためて外から観た時に、「ダサいなぁ」とか思われたら辛いですもん。でも、人生経験をたくさん積んで改めて観てくれた時に、良いって言ってもらえるのはなんか、感無量です。
まや 今、中心的なメンバーっていうか、なっちゃん(榊菜津美)・(沼田)星麻とかは私とあんまり入った時期変わらない感じだけど、少し後から入った(相葉)るか・りこもそうだし、さんちぇ(一川幸恵)・ゆっこ(大塚由祈子)とかみんな、元々のポテンシャルが高いよね。お芝居の面でもダンス的な面でも。みんなが持ち込んできたものがそもそもレベル高いから、引き継いだっていう以上にパワーアップしてるってすごく思うかも。で、そこにまた新しいメンバーがいっぱい入ってね。その人たちが、みんな個性的じゃん。
りこ そうですね。
まや 勝手なイメージなんだけど、例えば学校のクラスだったら、なっちゃん・星麻・るか・りこ・さんちぇ・ゆっことかは、それなりに優等生だし、友達付き合いも普通にありそうで、私自身そういうタイプだったから何というか予想出来る範囲内に収まってる感じがするんだけど……、ここ2年くらいで新しく入ったメンバーって、みんな少しそういう感じとは違って、すごく騒がしかったり、すごく静かだったりとか、ちょっとクラスの無難に、ある程度器用に? 生きている層から外れたところで個性を発揮してる感じに見えるんだよね。『純愛、不倫、あるいは単一性の中にあるダイバーシティについて』(2022年2月上演)を観た時にそう感じた。
りこ なるほど〜。
まや そうそう。その中で今回、飛鳥と初めて一緒にやるんだけど、彼自身入団した当初と結構変わったなって思ってて、すごく楽しみ。
りこ 変わりましたよね! なんか、いい意味で変わったんですよね〜。
まや ちょっと話題を変えるけど、今回の企画に広田さんから出演の誘いがあった時はどういう印象だった? ダブルキャストでもあるわけだし。
りこ 昨年もお手伝いに入らせていただく位、めちゃいい企画だと思ってたのですごく注目してました。空洞ということですごく大きな劇場ではないんだけど、逆にそういう密な空間でこのメンバーでやれるというのは、俳優としてトライすべきだなと思ったり、なんて言うんですか、人重視です! まやさんと一緒にお芝居出来るって事も今までなかなか無かったですし、(ワタナベ)ケイスケさんとも相手役をガッツリやっていたのは今までは姉のるかの方で、私は実はそんなに絡んだことが無かったので。だからお二人と共演出来るっていうのはすごく貴重だし、俳優として超チャンスだと思ったんで価値になるなっていう思いはありました。
まや 恐縮です(笑) 青盤三人での稽古場の雰囲気はどんな感じなの?
りこ 昔のアマヤドリ感がすごいですね(笑)
まや なにそれ!どういうこと?
りこ 『天国への登り方』の時って、稽古終わった後に帰りの会と題して1時間以上時間を取って例えば、「〇〇さんのあの言い方はNGだったと思います」みたいな、ハラスメント的にどうだったかを全員で話し合う時間を設けてたんですよ。でも今回は、気さくな? ざっくばらんな感じだったから、全然雰囲気が違いますね。
まや 何ていうか表現難しいけど、一線をあんまり引いてない的な……?
りこ カズ(堤和悠樹)に関しては緊張してるかなとは思っているんですけど。本人はそんなことないって言ってたんですけど、『天国』で積み重ねてきた稽古場の雰囲気とのギャップがすごいから(笑)
まや カズは慎重なところもあるし、まだ入団して3回目の出演とかだもんね。私は昨年三人芝居を一緒にやったから、自分の中でほぼ甥っ子? 弟? ぐらいの気持ちなんだよね(笑) 愛嬌があるよね、彼は。
りこ 愛されキャラですよね。あと、真面目ですし。赤盤の稽古場はどんな感じですか?
まや なんとなく私の中で、陰/陽で言ったら赤盤のメンバーが「陽」というような、暗さもありつつの、最終的には「まあ、いっか」って楽天的なパーソナリティを持った三人かなってちょっと感じてるんだよね。
りこ うんうん。
まや 倉田(大輔)さんとかは演者として暗いキャラクターも見たことあるけど、本質的にはすごく明るい人なのかなと思うし。私は逆に、実際は結構暗い性格なところもあるんだけど、役柄としては明るく元気な人が多いし。飛鳥はすごく陽気なキャラクターに見える。あとは、舞台自体久しぶりだからっていうドキドキも正直ありますね。
りこ え、あるんですね。
まや めちゃくちゃあるよ〜。昨年は、直近で別の舞台に出てたからアマヤドリも「やれるな」っていう風に思ってたんだけど、今年は前回の本番から1年近く空いてるので、徐々にこう、ギアを入れていかないとなって思ってる。
りこ 安定・土台・実力! みたいのが赤盤で、青盤はスパイスカレーとシゲキックス組み合わせたみたいなイメージです(笑)
まや なるほど(笑) あと、今回私たちが演じる役どころ、被害性と加害性の両面を持った女性の役だと思うのだけど、私はすごくハードルを高く感じてるんだよね。それは深刻な意味で「加害者」にも「被害者」にもなったことがないからなんだけど。そのあたりはどうかな?
りこ いろんなメディアで被害を受けた人の話を聞いたりすると、被害を受けてたって分かるまでタイムラグがあったりして、そこが思ってた被害者像とちょっと違うんだなって思いました。
まや 確かにそうだよね。私は、自分の実人生でそういう状況に近い関係ってなんだろう? って考えてみたんだけど、親子関係・夫婦関係みたいなすごく濃い関係の中に、被害と加害の要素を見出せるなって思っちゃったんだよね。実際の暴力とまではいかなくても相手の機嫌を伺う時はあるじゃない? 親子にしても夫婦にしても。怒りを抑えきれずに行き過ぎちゃったなっていう経験も……。少なくとも、私側はある(笑)
りこ なるほど。
まや そういうこと沢山考えてたらすごく辛くなっちゃって(笑) 普段フタしてる部分でもあるから、深掘りするの嫌だなって思って、思わず思考停止しちゃったよ。そういう実生活と結びつくようなやり方でやる必要があるのかっていうと、必ずしもそういうわけでもないんだけどね。
りこ いや、でも大事だと思います。何にも伴わないのは嫌ですもん(笑)
まや 自分は結構、被害者っぽく受け取っちゃうことが多いんだけど、「被害を受けてるから私のこの攻撃には正当性がある!」みたいな形で、実は結構加害っぽい行動をしちゃうっていう感じかな。これ大丈夫かな、人として(笑)
りこ 自己防衛ゆえの加害になってるみたいな感じですかね?
まや そうそう、でも、自己防衛っていうのもあくまで自分の目線で見た時の話であって……。相手からするとそういう認識じゃなくて、お互い様だったりするじゃない? そういうのも分かってはいるから、今までの自分の行いに反省もしてるし、偏ってるなって自覚もあるからこそフタをしていたの。自分の中のそういうところをうっかり開けちゃたもんだから、ちょっと泣いたよね。
りこ (笑)
まや あと稽古場で出た話なんだけどね、広田さんが、まやとりこは中身は結構似てるみたいなことを言ってたんだよね。
りこ えー、そうなんですね!
まや そうそう。最終的に人を頼りにしないで自分でやるところとか、闇の抱え方とか、人をコントロールするところとか、だそう。コントロールするって言ってもそんな変な意味じゃなくて、笑顔で励ましたり相手のテンションをあげることで人に動いてもらう、的なことらしいんだけどね。そう言われて、私もそれはそれで納得する部分があった。でも、そうはいっても違う人間だからさ、同じ台本をやったら解釈が微妙に違ってくるよね、きっと。
りこ すごく変わると思います!
まや ね。それでまた他の二人もそれぞれ違うから、違いが出るのがすごい楽しみだよね。普通にすごく観たいなってすごい思う!
りこ 実力云々って言ったら、もうもう絶対的にプレッシャーってことでしかないと思うんですよ、周りから見たら。
まや そんなことないよ!
りこ でも、相手役にまずカズがいるってことで、絶対二作品は変わる! って思ったんですよね。
まや カズが特殊過ぎて?(笑)
りこ そうなんですよ!昨年の「抹消」での演技が凄く印象的で。なんと言うか、めっちゃ面白かったんです。私が同じ台本を貰っても、同じようにはできないなって。彼の中で意図的な部分もあると思うけど、多分自分自身の中ですら奇想天外な部分が大きいと思う(笑) そんなエキサイティングな相手役だからこそ、同じようにやろうとしても全然ならないだろうなって。そういう意味では、彼のおかげで気楽にできる部分もあるかも。
まや なるほど。
りこ あと、今日まやさんと話すって決まって話したかったエピソードがありまして。まやさんはお芝居を教えるって事も、巧みさ、秀逸さがあるなぁって思ったんですよね。下の子が入って来てお芝居のやり方を教えるってめちゃめちゃ大変だなってこの数年思ってるんですよね。だからあまり触れないようにしてしまってるんですけど、、、それでも伝えたいことが伝わってないディスコミュニケーションみたいのが発生してるのではと思う事があって。
まや うん。
りこ でも、『月の剥がれる』(2016年9月上演)の時にまやさんがポエムを読んでるのがすごい素敵で、どうやって演じてるんですか? って聞いた時に、まやさんが「じゃあ一緒に(詩を)書いてみようよ!」って言てくれて! 一緒に書いてくれたんですよ! 本当に! めっちゃ覚えてて!
まや 懐かしすぎる! りこ、めっちゃいい詩書いてたよね! 「電気が消えた」みたいな。
りこ まやさんが書いたのはすごい陽気な詩だったんですけど。私が書いた詩は「蛍光灯」と「ゴキブリ」っていうタイトルで(笑)
まや なんかすごい、白色電球の色のイメージが今も浮かぶ!
りこ でもあれを通じてすごい考えさせられたことがあって。「教えてください」って言われた時に「じゃあやってみな」じゃなくて「私も一緒にやるから」って言って書いてくれた事とか、それを読んでお互いに笑い合うっていう時間で、言葉を扱う事みたいな、どう読むの? っていう直接な答えじゃなくて、自分が実際に書いてみることで、なるほどなって思った部分もあったんですよね。なんかああいう形の教え方をしてくれる人って、(中村)早香さんは仙人の位置にいるので別格ですけど、周りにやっぱりいないからすごいって思ったんですよね。っていう話をしたかったんですけど、今日(笑)
まや 嬉しい〜! いや、もう全然作戦ではなく! 何で自分も一緒に書いたんだろうって今思うとすごい疑問(笑)
りこ いやホント、素敵な思い出、かつお芝居伝えるのすごいなぁって思った話なのです!
まや ありがとう。貴重な人材でよかったです……じゃあ、またポエム書こうね(笑)
りこ (笑)
まや それじゃあ最後に、自分の好きなところと嫌いなところ、みんなに聞いてるので教えてください。
りこ はい、好きなところは「カツオ力がすごい」です。サザエさんのカツオが、ギリギリで宿題間に合わせる力、的な……。嫌いなところは、コツコツできないところですね。
まや ありがとう! 私はですね、好きなところは一生懸命やれるところ。それで嫌いなところは、気が短いところ、かな。
りこ そんな短いですかね? でも、じゃあ、一生懸命なまやさんを、怒らせないようにします!
まや はい、よろしくお願いします!(笑)